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第2話

 そんなわけでイベント当日、更衣室で衣装を着替え、メイクを施してもらった結果を、鏡を見るより先に二人にお披露目した。 「我ながら恐ろしいものを作り出してしまったわ……」 「女装でここまでクオリティ高いと、嫉妬を通り越して崇めたくならない?」 「わかる」  衣装担当のランさんとメイク担当のナギさんの反応からして、どうやらそれなりのハードルは超えられたらしい。  選ばれたのは女の子アイドルがいっぱい出てくるアニメの、(かみ)那月(なつき)という子。一年それぞれの月をモチーフにしたグループの中で十月を担当するキャラだ。可愛いキャラが多い中でその子はわりと背が高く綺麗系のキャラだから俺にもできるだろうという判断だった。  ダンス好きの努力家という性格は設定とはいえ好きだったし、試すつもりで挑戦した。  アイドル物のステージ衣装ということで体型隠しは綺麗にできているし、普段とは違うメイクのおかげで高身長での女装というインパクトも薄められた上で、違う意味で迫力が出た。こんなきっかけとはいえ、新しいことに挑戦したことで新しい発見ができたのは朗報だ。 「ナンパ男釣れそう?」 「むしろ大漁になりそう」  そんな太鼓判をもらった結果、いつもの仲間たちには写真を撮られまくり、開場してからは普段とはちょっと違うカメコに囲まれることになった。  いつも来る人たちもいたけれど、普段は露出多めの女の子たちを撮っているような人たちもやってきた辺り、かなりのインパクトは与えられたらしい。男でもやはりスカートの中が気になるらしく、下から撮ろうとするローアングラーもいい感じに鬱陶しく周りを囲む。  『ダンスの神様』というあだ名がついている神那月のコスをするためにポーズはいつもより若干アグレッシブでも、スカートの中を見せるような下品なことはしない。  そんな中、声をかけてくる相手は連絡先の交換を求めるけれど、大体SNSのアカウントを教えておしまい。それ以上の誘いはないから、まあ通常通りのやりとりだ。いつもより男の割合が多いくらいで。 「写真いいですか」  そんな風に周りを囲むカメコたちの波が過ぎ、一旦落ち着いて人がいなくなったタイミングでそう声をかけてきたのは、わかりやすく場違いなイケメンだった。カメラは持っているけれど、明らかに周りとは雰囲気が違う。 「いいな、凛々しくて。キャラを壊してないし、めちゃくちゃ美人」  とりあえずポーズを取って応えると、聞こえるように褒められた。だからお礼を言いつつ密かに観察。  アッシュグレージュの髪はイケメンゆえにぼさぼさとは取られない適度な遊びが入っていて、正直なんでこんなところで写真を撮ってるんだと不思議になるほど。まあ最近はオタクと言えどオシャレな人は多いし、若干チャラいくらいでナンパ男と取るのは失礼だよな。タイプとはいえこちらから声をかけるのは違うし。 「撮った写真送りたいから連絡先交換しない?」  そして当然の流れということでそんな提案をしてきたから、いつもの名刺を渡すと、もっと個人的なのがいいと微笑まれて頭の中の警戒アラートが点灯した。おやおや? 「そんでさ、この後暇だったらカラオケとか行かない?」  おっと、と思わず目を丸めてしまった。なんとわかりやすいナンパ。遠回しに隠すわけでもなく飾るわけでもなく、なんともストレートな誘いだ。  確かに胸板の厚い甘いマスクの男にこんな風にあからさまに誘われたら、大抵の子は引っかかるし後で泣かされそうだ。……でも、元から一晩限りの付き合いを求めている俺は別で、手に持った釣り竿の大きなしなりにニマニマと笑いたくなってしまう。どうせ寝るんだったら、やっぱり好みのタイプがいい。  だから喜んで、とキャラとして許される最上級の微笑みを見せると、じゃあ終わったら教えてと連絡先を交換してさっさとどこかへ行ってしまった。無駄な押しもない余裕の引き際も見事。

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