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第3話
待ち合わせ場所のバーに、オレは1時間前から来ていた。いつも待ち合わせには、比呂 の方が先に来てるって気づいてたから。時間ギリギリに飛び込んで来るのも、遅れることがあるのも匠 の方だ。
オレの読みどおり、比呂は約束の30分前に店に来て、カウンターで飲んでるオレに気づくと頬を緩めてとなりに座った。
そんな態度を見て、他の奴らはきっとオレが比呂の恋人だと思うだろう。確かにこれからホテルでエッチするんだけど、つきあってるのはオレたちじゃない。
「ねぇ、比呂。もうオレとつきあっちゃおうよ?」
10分くらい雑談して、比呂が2杯目を頼んだところで、オレはそのゴツい手に自分の手を重ねた。
「匠は絶対ネコにはならないタイプだし、オレ比呂とだったら毎日でもエッチできるよ?そろそろ売りとか辞めたいし…… 比呂はオレのこと、自分だけのものにしたいとか思わないの?」
太くて長い指に、上から指を絡ませる。一本でかき回すだけで圧迫を感じさせるその無骨な指を、オレは結構気に入ってる。
わざと少し低い位置から上目遣いに見るオレを、比呂が真顔で見返した。
「ミカオ、おまえを抱いてる時でも、俺はずっと匠を見てる。匠はどうかわからないけど、俺はこの形がいいんだよ」
諭すように言われて悲しくなった。
「バカじゃねえの、おまえら。匠もおんなじことオレに言ったよ。ホント失礼極まる奴らだな」
「匠が……?」
聞き返した比呂が、嬉しそうに目を細める。
匠は比呂に言ってなかったのか、オレが前に匠を誘ったこと。
匠らしいな…… チャラそうな見た目の割に、考えてるんだ、いろいろ。いつも気遣ってくれて、ラインとかのやりとりでも細やかで、そんなとこを好きになったのに。
「匠の方がもっと、言葉選んでくれたけどな!」
悔しくてそう言ったけど、2ヶ月前に匠に言われたことにも、オレはすごく打ちのめされた。
匠がオレに傾いてくれる可能性なんか、1%もないんだなって、思い知らされたから。
「ミカオが俺に抱かれて気持ちよさそうにしてるの見て、比呂がネコに興味持ってくれたらいいなって思ってたんだけどさぁ。向こうも同じようなこと考えてたみたいで、こりゃだめだなって、笑っちゃったよ。でも、そんな話して笑いあえるのって、俺にとっては比呂だけだしさ」
愛しそうに目を細めながら、
「ごめんな、俺、比呂のこと大好きなんだよ」
って、匠ははっきりとオレを振った。
それからも全然、オレのこと意識したりギクシャクしたりしないのがなんか、最初からおまえなんか眼中にないし、そんなことで2人の関係は揺るがないんだよって、見せつけられてるようでつらかった。
でも2人に求められる以上、オレの方から離れるなんて考えられなくて。
匠はなんでオレより比呂がいいんだよって観察するうちに、比呂の包み込んでくれるような温かさも、いいなって思うようになっちゃったんだ。
「知らねぇからな。匠がそのうちオレに本気になったら、オレ匠のことおまえから奪っちまうからな!」
全然そんな日が来るとは思えないけど、強がりたかったオレは比呂にそう、悪態をついた。
「その時は男らしく諦めるよ。それより今日はどうする?もうすぐ匠が来ると思うが、ミカオがつらいなら今日は無しにしても…… 」
「それも!匠にも言われたよ。なんでおんなじこと言うのおまえら?そんなに通じ合ってんのに、なんでタチだけは譲れねぇの?」
「なんであんなに頑ななんだろうなぁ、あいつ」
「おまえもだろ!」
「俺にネコができるわけないだろ」
それは匠だってそうだろう。匠はいつも楽しそうにオレを抱く。気持ちよさそうな顔を見るのが好きらしい。オレの感じるところを攻めて、絶妙な意地悪を言ったりするあいつは、確実にSタイプのタチだ。
「お前みたいに俺たちのこと理解してくれてる奴、他にいないよ。ありがとう、ミカオ」
比呂にそう言われて、余計に悲しくなった。
こんなに優しいのに、大事にしてくれるのに、比呂も匠もオレのものにならない。
何度も2人に抱かれて、わかったことがある。
2人がオレに優しいのは、お互いに相手にしたいと思ってることをしてるからなんだ。
比呂はオレを突き動かしながら、乱れる匠を重ねて見てる。
匠はオレの前立腺を擦りながら、よがる比呂を想像してる。
比呂と匠は2人だけの世界にいて、オレはそこに入れない。それを、何度でも思い知らされる。
目の前で水音をたてる2人のキスは、オレを孤独の底に突き落とす。
身体が繋がらなくても、心は強く繋がってる2人。
オレは2人に挟まれて、身体を貸してるだけだ。
イケメン2人に同時に求められて、優しく抱かれて金ももらえる。はたから見たらオレは羨ましい立場なんだと思う。
でも、2人を知れば知るほど深みにはまってしまったオレは、孤独と渇望でがんじがらめになって、抱かれるたびに身を切られるようにつらかった。
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