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第4話
窓の外には、日本では見られない透明感のある海が広がっていた。その手前の丘の上には、ドラマに出てくるような小さな教会がある。
オレは純白のドレスに袖を通しながら、午後の陽の光を反射してキラキラ輝く海を横目で見ていた。
比呂 と匠 がオレのために用意してくれた男性用ウェディングドレスは、細身でシンプルなものだ。
大きく開いた背中で細い紐を編み上げるデザインは、とても1人で着られない。本物の花嫁みたいに、ホテルのスタッフが着替えを手伝ってくれていた。
背中の紐を編み上げる男性スタッフがオレのことをどう聞いているのかは知らないけど、キレイなドレスを着せてもらっても、オレがあの教会で結婚式を挙げるわけじゃない。
教会の周りの明るいグリーンには、白やピンクの点がたくさん浮かんでいた。芝生に散らされた花びらは、さっき終わったばかりの挙式の名残だ。
オレはその式に列席した。ちゃんと、日本から持ってきたダークスーツを着て。招待客の一人として、笑顔で両手いっぱいの花びらを主役の2人に投げた。
幸せそうだった。
グレーのフロックコートの匠と、黒いタキシードに身を包んだ比呂は、今日の佳き日にハワイの教会で、結婚式を挙げた。
一緒にハワイに来てくれないか。
2人にそう言われたのは3ヶ月前だ。
渡航費も宿泊費も出すし、昼間は好きに観光して構わない。
もちろんミカオが嫌なら無理にとは言わないし、これからもこういう関係を続けるかどうかを含めて、ミカオが決めていいんだよ。
そんなふうに言われたけど。
ハワイでの挙式を決めた比呂と匠はとても幸せそうで、水を差すようなことは言いたくなかった。
ハワイには行ったことがなかったし、2人が結婚するなら見届けたいと思った。何より、もしもオレが断ったら2人が誰か他のネコを買ったりするのかもと思うと、たまらなかったから。
オレは2人のブライダルに、全面的に協力することにしたんだ。
今ごろ2人は、無事に挙式を終えてスイートで寛いでいるんだろう。準備ができたら部屋を尋ねるように言われていた。
今夜は初夜だ。
そのために、オレはウェディングドレスを着せられている。
何度も肌を重ねた2人。
でも、一度も身体を繋げたことがない2人。
これからも、そのスタイルを崩すことはないんだろう。
目の前に揃えた白いハイヒールを勧められて、長いドレスの裾を持ち上げて足を入れる。スタッフに恭しく手を差し伸べられた意味がすぐにわかった。こんな安定しないものを履いて、よく街を歩けるものだと感心してしまう。
どうせすぐに脱ぐことになるか。そう思って、そんなのこのドレスだって同じだなって、1人でちょっと笑った。
あいつらに脱がされるために着たんだ。
そう考えると、染みひとつない純白のドレスが、ひどく淫らなものに思えてきた。
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