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第20話 かいちゃんって
「オメガはね、アルファにしか感じない魅惑のフェロモンが出てるんだよ。感知するとその気がなくとも堅物だろうと何だろうとアルファなら番以外、オメガを襲っちゃうんだから。あ、でも瀬那君が理玖…お坊ちゃんに嫁ぎたいと思ったなら余計なお世話なアドバイスだね」
ふ、ふーん…俺、知らないうちにアルファを誘うフェロモンが出てるんだ…なーんか、えろいはなし。アルファだけしか感知しないのも不思議だけど。
長男さんに嫁ぐって事より今は俺自身を認知…っていうか候補として存在を認めて欲しいというか。それに襲われちゃうかもなんて、心の準備どころか考えられないんだけど。
「そういえば、かいちゃんはオメガなのに俺のフェロモン感知したの?」
「え?」
「今、鼻孔にスンスンって、最初に会った時もそんな事を言っていたような気がするけど」
「そうだっけ…?」
可愛らしくこてっと首を掲げるかいちゃんだけど、とぼけてるなそのポーズ。同じオメガ同士ならフェロモンがわかるのかな?俺もかいちゃんの匂いを嗅いでみたくてクンカクンカ鼻を胸のあたりに近づけた。
「っわー、イイ匂いする…」
「コラ変態さーん!こんな花の匂いと違うの。僕のはメイド服着てるんだし身だしなみで香水をつけてるんだよ」
「確かに!これウチの柔軟剤の匂いと似てた」
「例えるならアロマかフレグランスって言って欲しいな…」
黒いエプロンのポケットから小さな箱を開いてカプセルの薬を出すと、俺に手渡した。これが抑制剤というものらしい。『オメガだったら常に常備してなくちゃ駄目だよ』と言われたので、明日からそうしようと思った。
かいちゃんに見送られながら先輩メイドが俺を見かけると、峰さんが怒こってると言われたので廊下を走って風呂場へ向かった。
そんな俺を見ていたかいちゃんが小さく、そして寂しそうに微笑んだ。
「あの子なら、きっと救ってくれるんじゃないかな……そう思っちゃうよ、理玖兄さん」
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