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第25話 僕の望み ・side夏威3
瀬那くんはオメガのはずだ……で、無かったらあのカプセルは意味がない。
僕が渡したのは、抑制剤とは真逆の誘発剤だ。オメガが周期に来る自発発情『ヒート』ではなく、強制的にヒートを誘発する薬で、特に番のオメガが計画妊娠などに使用するらしい……『番』を持つ睦月さんからちょろまかしてきたのだけど。
今にも倒れそうな理玖兄さんは、誰が見ても……いや、僕が知る限りアルファ特有の『ラット』状態だった。
壁に凭れ掛かって気怠くしてる…いや、あの姿は煽情から流れ出てるフェロモンだ。
メイドがそんな理玖兄さんの手を取るけど、強い力で跳ね返す。そんなに力を入れたらメイドの腕の骨が折れてしまうよ。
「……。」
アルファの理玖兄さんが、オメガである瀬那くんをそのままにして置いてきたって事!?
発情 を誘起させられたアルファはオメガと一つになる事を強く促そうとする。その意味は放置すると、次第に瞳は赤色に染色されてそこかしこも獣人化するのだから。
そうなれば周囲は堪ったものじゃないし、警察沙汰になるようになる。アルファは国でしっかり護持されているので赦免 されるけど、大抵のアルファはそんなことにならないようにオメガが居る場所では常に抑制剤を服しているはずだ。
ただ、今の理玖兄さんは無防備でいる。瀬那くんがまさか、園城家に迎えられようとしているオメガだとは知らないようだから――。
「ぐッ……ハッ…ハッ…ちか…よる……なッ!」
辛そうだ……欲を自ら制止することは、アルファだって狂おしいほど辛い筈なんだ。
「理玖兄さん、戻って」
兄さんが険しい声を発しながらも、僕の声に反応したのか振り向いた。
「な……っ…カ、イ…」
「うん……、行こう?瀬那くん、良い子なんだよ」
まだ瞳は赤くはなっていない。僕の声や言葉は聞こえてるよね。
理玖兄さんは強くガッシリと僕の肩を掴むと、何かを言いたそうにしていた。
痛いなぁ…爪が食い込んでる。それでも我慢をしないと瀬那くんのところに連れて行けない。
ほっんと世話の焼ける人だから。
たぶん、オメガのフェロモンから逃げてきたのは僕のせい……。
園城家の正統の血を穢すようなオメガになった僕という呪縛のようなお荷物は、もう投げ捨ててよ。
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