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第29話 イラ立ち ・side夏威5
・・・・
「夏威?…何故……ッ」
「ごめん。後でお叱りを受けるから……瀬那くんを介抱してあげて……それだけで良いから」
「馬鹿な……!」
「瀬那くんは、父さんが決めたオメガの子なんだ。僕が見るに理玖兄さんに託される子だよ」
浴場に向かうと、理玖兄さんを浴室に精いっぱいの力を振り絞って閉じ込めた。
ドンドン
「夏威!!いい加減にしろ……か、い!」
「理玖兄さん……ごめんね……」
ドォーン
僕の力なんてアルファの半分もないのは知っていた。必死の形相で僕の方に向かって来て腕を取る。懐かしい感触に馬鹿みたいに胸をときめかす。それにさっきから兄さんの放つ匂いが……疼くように体が熱くヒートを誘発しそうだ。
オメガに誘発されて平常のアルファでも抑制剤を服用していないと呼び合うフェロモンが放出する…。
その匂いに充てられる僕は情けない。
「……ッ…あの子がオメガだろうがなんだろうが、おれは抱く行為には……なれないと言うのに!それを知っていて、どうして……夏威っ」
「理玖兄さんは僕と違うよ、アルファとしての威厳を持っている。まだ、戻れるんだ、健全なオメガを娶って君臨する人なんだよ!」
「違う…!……もう、止めてくれ」
兄さんの目が濃く充血している。興奮させていると時間も関係なく獣化が始まる。
目前の兄さんは首を振り続けている。
なんていう忍耐力なんだよ……頑なの理玖兄さんにこれ以上伝えても、結局は僕が空回りするばかりなんだ。
兄さんは、それでも――
「……それでも(僕を)選べない癖に、ね。………これを飲んで……」
僕は理玖兄さんにアルファ用の抑制剤を手渡した。
飲んでくれると、きっと獣化は止まると思う。
僕は、もう一個のカプセルを持って浴室に駆け込んだ。
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