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第33話 残酷な神様
かいちゃんが園城家の御曹司……そんなのピンと来ないよ……。
別荘だとしても身内の家のメイドとしてこっそりやって来て、それも御曹司だという事を言わないから誰も知らなかった。あの峰さんも。
普通にメイドの仕事をせっせとこなしていたし、先輩のメイドさんたちや可愛いメイドさんたちともすんなりその場に溶け込んでいたし、男と見破られないために分かりやすいドジっ子の振りなんかもして……それでいて誰隔てなく人一倍に気遣う優しい人だった。
園城家のエリート然としてのイメージが強い御曹司だなんて到底思えなかった。それは理玖さんもだけど……。
きっと俺の知らないかいちゃんが存在しているんだろうけど、俺にとってのかいちゃんはメイドのかいちゃんだよ。俺のライバルのかいちゃんだったよ。
アルファからオメガに変転するなんて初めて聞いた。
アルファは世界で選ばれた人種だし、すべてに於いて強者で特別で最上級。アルファ以外の全ての人類を制することも出来るアルファだってことは俺でも知っている。ちょっと憧れた。
アルファの中でも特化した家系である園城家の御曹司に生まれたんだね。
俺が逆立ちしても想像できない未来や将来が約束されているはずなのに、かいちゃんが……アルファからオメガに変転するなんて、どうして……なんの呪いなんだろう。
全て失くしたような壮絶な絶望感に浸るはずだ。第二性の事を深く知らない俺でも想像できる。
アルファから落ちてオメガになった人生は、きっと深く失望して自暴自棄になって毎日お酒に溺れて母さんを困らせてしまう……なんてしょぼい事しか想像できない俺は自分で腹が立つ。
それなのに、かいちゃんは……。
《第二性の変転は僕にとっては残酷なんかじゃなかった。神様がくれた奇跡とも思った》
そんな気持ちを持つことが出来るなんて……正直、混乱を招いた。好きな人の為だなんて。
俺は17歳だけど、未だそこまで真剣に恋なんてしたことが無かった。初恋や好きなタイプの子にはトキメキはあっても、絶望に値する人生に変えられてもそれが自分の人生だと受け入れられる恋なんて……やってくることもないだろうけど。
《相手に寄り添い番になれるのなら奇跡だとさえ思える》――そんな運命のような恋をして、かいちゃんは救われたの……?
運命の人って凄い……オメガは将来を託して添える人が出来ても、運命の人を探すのが難しいって思っていた。
好きな人に寄り添う事が一番、幸福。
かいちゃんは切なくも、俺にそう叫んでいるように思った。
なのに、運命の人が兄弟だなんて……!
居たたまれないのが、かいちゃんはお兄さんに懺悔してお兄さんの幸せを探している。
かいちゃんのせいでも、お兄さんのせいでもなのに。
……残酷な神様!ひどいよ、こんなの、かいちゃんが可哀そうすぎるよ――!!
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