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第37話 深い海の如く貫く愛

「俺は……かいちゃんが心配です」 床の絨毯に付けていた頭をやっと上げてくれた、理玖さんの表情は既に崩れていた。 「…すまな、い……」 「それは、かいちゃんに対してですよね?」 今は夏威さんと言うべきだった。夏威さんはそれでも園城家の御曹司さんなんだから。 「俺、オメガですけど両親がベータなのでまさか自分がオメガだって検査で分かった時、目が点になったんです。物心がついた時から凡庸とした毎日だったし自分の将来は父親のような無難な道に行くんだろうって……オメガについても全くと言って良いほど学んでこなかったから、騙されてもしょうがないんです。けど、お二人になら利用されても構わないって思ってます!」 また一息ついて、俺なりの意見を伝えたかった。 「理玖さんは、夏威さんに操を立てて発情したおれに頑なに近寄らなかったですよね。アルファとオメガは互いに引き寄せられると聞いてます。夏威さんは実はわかっていたんだと思います。利用したって言うけど、きっと夏威さんは理玖さんの内心や愛情を確かめたかったのかなって……だって言ってましたもん『僕は瀬那くんのライバルだから』って。本心を隠してまで自分を悪く思わせても理玖さんをこんなにも大切にしてる。俺に託したいって言ったけど、その意味は分からず屋の理玖さんに教えて欲しいってことですよ!」 「君は……良い子だね、夏威がおれに預けたのも頷ける。しかし、夏威はおれに言葉も無しに出て行ってしまったよ、おれに呆れている。それが今の答えなんだよ。大切だと思っていた者を穢してしまったおれは、伴に落ちて行ってくれと言えない。あの子はおれの大切な弟だから、追う事なんて出来ないんだ」 ち、違う!ヘタレーー!!このブラコン!! 「夏威さんは、Ω性になっても理玖さんに支えてくれて、あ、愛してくれて……きっとαでもβでも関係なくて……兄弟の線を越えたとしても……本物の運命の相手は心で繋がっているって感じで、けど運命は二通りある事もあって……選ぶのは自分自身に向けて後悔しないような運命?駄目だ、難しくなってきたっ!」 人の恋時はなんとやらっていうけど、理玖さんの弱気には夏威さ…ちゃんに対する想いが大きすぎる。かいちゃんだってそうだ。二人は相思相愛なんだから。 俺は煮え切らない理玖さんの態度に、かいちゃんの手紙を渡した。 かいちゃんが本音を言えない部分が書いてあると思ったから。 この恋は重過ぎるけど、捨てなくちゃいけない恋じゃないよ、きっとそうだよ……。 母さんには悪いけど、俺はかいちゃんの味方になる!! 玉の輿の作戦よりも、深い海の如く貫く愛を応援しちゃうよ! 《夏威編 END》

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