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第41話 《宮雨編》
地上32階の高層の窓から映る大いなる海原と雄大な山脈を見渡すことが出来る生徒会室では、軽やかなタイピングの音がしている。
室内には今現在、学園生での間でライバル視として君臨している二人だが、お茶と相して親しく会話に弾んでいた。
その一人、生徒会長である西成冬揮 が窓の脇にあるベンチに紅茶を口にして腰掛けるそのライバルに先ほどまでと違う少し重い声を発した。
「シロ、それで3年ぶりに本邸に戻ってどうだった。ゆっくり寛いで来たのか 」
「いや……別に挨拶程度に父に会って来ただけだよ、すぐ戻ったろ?」
「見合い話をされただろ? 」
「良くわかってるね。俺のところの会話なんて、いつ戻るんだ、お前が家督を継げ…で、こちらで選んだ嫁を貰え――が付け加えられただけで、顔を見合わせれば始まる会話だよ。それしかない、あの人は相変わらず勝手なんだ。それで兄ともギクシャクしていると言うのに」
「血統在りきの厳格な園城家だ、抵抗はキツそうだな。オレも帰るとうるさかったが、番になったツレを紹介したがギャンギャンと吠えられたので、親父の前で噛み傷を見せたら黙ったぞ」
生徒会長は今まで手元のパソコンを打っていた指は休めて、机に置かれたコーヒーを口に含み、細く鼻で笑う。
「フ…お前らしいよな。番か……俺も父親に番を紹介したら黙らせるくらいは出来るのかな」
「シロ……逃げるは勝ちじゃないぞ?」
ただ、父は自分の決めたことは必ず成し遂げようとする。家督に関わる事なら尚更……。
それはどんな手を使って来るかわからないが、あの家 から遠く離れた私立王醒学園(通称 王学)まで手を差し伸べて来ることもあり得ると思いを馳せなければならない。
園城家三男である園城宮雨 は憂鬱そうに顔を歪ませた。
そして、今まで使う事のなかった“アルファに認められている特権”を使用することも視野に入れる。
「俺は嫌な奴になり果てて行くな……」
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