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第3話
『え。マジ可愛いレイヤーさんっすね。僕、あのゲームのリリィちゃん大好きで。良かったらお友達になってください』
通知マークに、赤丸の数字が1。
どうせまた見えやしないいんだろうと思いながらも、返信とフォロバをする。もはや習慣だ。寂しさは、反応のない悲しさに勝つのだ。
『ありがとうございます!』
『まさかのフォロバをありがとうございます! リリィちゃん@SNさんは次の秋のイベントには参加されないんですか?』
ついに幻覚が見えるようになったのだろうか。どんな理由でも、勘違いでも良い。俺は喜び勇んですぐさま返信を返した。一時でもこの寂しさを誤魔化せるのなら何でも良い。
『もしかしてこのツイートが見えているんですか? そうだと嬉しいです!』
『え? 普通に見えますけど? もしかしてシャドーバンでもさたんですか?』
おいおいおいおい。本当に返事が来た。内容もかみ合っている。他人のリプに俺が勘違いした訳でもなさそうだ。
俺は震える思念体の体で、返信を入力する。実際には体はないが、これはもう概念の話だ。
『本当に困っていて……。今どんな画面になっているのかスクショしてもらえませんか? お願いします』
『良いっすよ。凍結って大変なんですねー』
『ありがとうございます!』
しばらく待って、待ちきれず、TLの最新ツイートを何度も何度も更新して、返事が来ていないかを確認した。
『お待たせしました。ちゃんと通知も来ていますよ』
表示されたTLのスクショ画像には、俺のアイコンと零FFさんのアイコンがスレッドに並んでいる。すごい。普通のことが普通に表示されているだけなのに、すごく嬉しい。
俺がつかの間の喜びを噛みしめていると、横からリプが入った。
『君一人で何やってんの? 不謹慎だし、そういう悪ふざけ面白くないよ』
俺にではなく、零FFさんへの個別リプだった。
これはアレだ。つまりアレだ。
俺のツイートが完全に見えるようになったわけではなく、何故か零FFさんにだけ見えているヤツだ。
だとすると、零FFさんが、周りからおかしな人に思われても仕方がない。
その事実に、ザッと血の気が引く。
誰だか知らないが、善意だろうが何だろうが、本当に今はやめてくれ。
呪詛の言葉を吐きながら、祈る気持ちで零FFさんに返信をする。光の速さだ。
『零FFさん、事情を説明させてください!』
『今から零FFさんにDMしても良いですか? お願いですから、ブロックせずに、DMだけでも読んでください!』
『お願いします!!』
『?? 大丈夫ですよ』
俺の怒濤のリプに引いたかもしれないが、零FFさんは了承してくれた。零FFさんは神だ。地獄に下ろされた蜘蛛の糸だ。一条の希望の光だ。
何度も何度も事情を説明する妄想を繰り返してきた俺は、読むのが苦痛にならない長さで、簡潔にそしてしっかりと経緯を説明する文章を組み立てた。
送信マークをタップする前に、慎重にもう一度読み直す。
意味は間違いなく通じるか。馴れ馴れしくはないか。ふざけた感じはないか。重すぎないか。
藁にもすがる気持ちで祈りながら、送信をした。
その日、零FFさんからの返信はなった。
ふざけていると思われたんだろうか。気持ち悪がられたんだろうか。もう話しかけてもらえないんだろうか。
追いすがりたい気持ちは死ぬほどあったが、下手な対応でブロックでもされたら立ち直れない。ブロ解をされていないか数分おきに確認しては、泣きたくなるくらい安心した。
また話しかけてもらえるかもしれないという一縷の望みだけでも、手放したくない。
深夜から早朝に変わるころは、TLのツイートが一番減る時間帯だ。もう少しすれば、早朝活動組がつぶやき出す。
特に睡眠を必要としない俺は、ずっとSNSにかじり付いていた。零FFさんのホーム画面から過去のツイートを遡り、ツイートと返信、リンク先も隅々まで見た。
我ながら気持ちが悪いと思う。足跡機能の無いSNSで本当に良かった。
そこからたっぷり五日間、零FFさんからの反応はなかった。
悪い想像が暴走してしまう。
俺が気持ち悪すぎて、このアカウントごと捨てたのか?
いや、ただ単にリアルが忙しくてSNSに触れられない状況かもしれない。
もしかして事故? 事件?
それとも……
もうギリギリの精神状態が続いていた。一瞬舞い上がった分だけ、落ち方も過去最高だった。
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