3 / 5

第3話

『え。マジ可愛いレイヤーさんっすね。僕、あのゲームのリリィちゃん大好きで。良かったらお友達になってください』  通知マークに、赤丸の数字が1。  どうせまた見えやしないいんだろうと思いながらも、返信とフォロバをする。もはや習慣だ。寂しさは、反応のない悲しさに勝つのだ。 『ありがとうございます!』 『まさかのフォロバをありがとうございます! リリィちゃん@SNさんは次の秋のイベントには参加されないんですか?』  ついに幻覚が見えるようになったのだろうか。どんな理由でも、勘違いでも良い。俺は喜び勇んですぐさま返信を返した。一時でもこの寂しさを誤魔化せるのなら何でも良い。 『もしかしてこのツイートが見えているんですか? そうだと嬉しいです!』 『え? 普通に見えますけど? もしかしてシャドーバンでもさたんですか?』  おいおいおいおい。本当に返事が来た。内容もかみ合っている。他人のリプに俺が勘違いした訳でもなさそうだ。  俺は震える思念体の体で、返信を入力する。実際には体はないが、これはもう概念の話だ。 『本当に困っていて……。今どんな画面になっているのかスクショしてもらえませんか? お願いします』 『良いっすよ。凍結って大変なんですねー』 『ありがとうございます!』  しばらく待って、待ちきれず、TLの最新ツイートを何度も何度も更新して、返事が来ていないかを確認した。 『お待たせしました。ちゃんと通知も来ていますよ』  表示されたTLのスクショ画像には、俺のアイコンと零FFさんのアイコンがスレッドに並んでいる。すごい。普通のことが普通に表示されているだけなのに、すごく嬉しい。  俺がつかの間の喜びを噛みしめていると、横からリプが入った。 『君一人で何やってんの? 不謹慎だし、そういう悪ふざけ面白くないよ』  俺にではなく、零FFさんへの個別リプだった。  これはアレだ。つまりアレだ。  俺のツイートが完全に見えるようになったわけではなく、何故か零FFさんにだけ見えているヤツだ。  だとすると、零FFさんが、周りからおかしな人に思われても仕方がない。  その事実に、ザッと血の気が引く。  誰だか知らないが、善意だろうが何だろうが、本当に今はやめてくれ。  呪詛の言葉を吐きながら、祈る気持ちで零FFさんに返信をする。光の速さだ。 『零FFさん、事情を説明させてください!』 『今から零FFさんにDMしても良いですか? お願いですから、ブロックせずに、DMだけでも読んでください!』 『お願いします!!』 『?? 大丈夫ですよ』  俺の怒濤のリプに引いたかもしれないが、零FFさんは了承してくれた。零FFさんは神だ。地獄に下ろされた蜘蛛の糸だ。一条の希望の光だ。  何度も何度も事情を説明する妄想を繰り返してきた俺は、読むのが苦痛にならない長さで、簡潔にそしてしっかりと経緯を説明する文章を組み立てた。  送信マークをタップする前に、慎重にもう一度読み直す。  意味は間違いなく通じるか。馴れ馴れしくはないか。ふざけた感じはないか。重すぎないか。  藁にもすがる気持ちで祈りながら、送信をした。  その日、零FFさんからの返信はなった。  ふざけていると思われたんだろうか。気持ち悪がられたんだろうか。もう話しかけてもらえないんだろうか。  追いすがりたい気持ちは死ぬほどあったが、下手な対応でブロックでもされたら立ち直れない。ブロ解をされていないか数分おきに確認しては、泣きたくなるくらい安心した。  また話しかけてもらえるかもしれないという一縷の望みだけでも、手放したくない。    深夜から早朝に変わるころは、TLのツイートが一番減る時間帯だ。もう少しすれば、早朝活動組がつぶやき出す。  特に睡眠を必要としない俺は、ずっとSNSにかじり付いていた。零FFさんのホーム画面から過去のツイートを遡り、ツイートと返信、リンク先も隅々まで見た。  我ながら気持ちが悪いと思う。足跡機能の無いSNSで本当に良かった。  そこからたっぷり五日間、零FFさんからの反応はなかった。  悪い想像が暴走してしまう。  俺が気持ち悪すぎて、このアカウントごと捨てたのか?  いや、ただ単にリアルが忙しくてSNSに触れられない状況かもしれない。  もしかして事故? 事件?   それとも……  もうギリギリの精神状態が続いていた。一瞬舞い上がった分だけ、落ち方も過去最高だった。

ともだちにシェアしよう!