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案ずるな 俺がしっかり 出してやる

「マルセル殿……ハチは大丈夫なんでしょうか」 「うぅむ、詳しいことは何ともわからん。儂も異世界人は初めて見るからのぉ」  マルセルは長い髭をゆっくりと扱きながら、ハチを(つぶさ)に観察している。 「あつい……みず……」  譫言のように呻くハチに、ラドバウトは水を飲ませてやった。  冷たい水を一口含み、ふぅ……と安堵の息を盛らすハチ。  しかしまたすぐに高熱に魘された。 「ハチ、しっかりしろ……」  早くなんとかしてやりたい。しかし今は、ヘイスが戻ってくるのをじっと待つしかない。  ウンウンと苦しむハチの姿を見て、ラドバウトは己の拳を握りしめるしかなかった。 「お待たせしました!!」  騒々しい足音と共に、ヘイスが息せき切って戻ってきた。  マルセルは手渡された本をパラパラと捲り当該箇所を素早く確認すると、難しい顔をして「うぅむ……」と一声唸った。 「何が書かれてあったのですか? もしかして、これといった対処法がないとか?」  ラドバウトの胸に不安が(よぎ)る。 「いいや、対処法はあるのじゃが……」 「ではそれを早く!」 「しかしのぉ……方法に少しばかり問題があってな」 「どんな問題なのですか?」 「要は精を一滴残らず吐き出させればよいと、書いてあるのじゃ」 「精?」 「陰茎を刺激してやって、精液を出してやればよいらしい」  室内に沈黙が降りる。 「つまり、それは」 「性交する以外、この子どもが助かる道はない」 「なっ……」  ラドバウトは言葉を失った。  本当にそんな対処法なのか? マルセルは自分を謀っているのではないか?  思わず胡乱な目を向けてしまったが、マルセルは真剣な眼差しで「ここを読んでみぃ」と本を差し出した。  たしかにそこには、かつてこの地に舞い降りた異世界人が性交することで、体内の魔力を排出していたと書かれてある。 「“精気”はつまり“生気”。精液にも生命の源である魔力は含まれておるから、それを放出することで魔力過多を解消できる……という仕組みなのかもしれん」 「本当なのですか、それは」 「儂にもよくわからん。しかしわれらと体の仕組みが違う異世界人には、その方法が一番だったと言うことなんじゃろうなぁ」  マルセルは髭を何度も擦りながら、そう答えた。 「すぐに娼婦を手配しましょうか?」  ヘイスが即座に提案する。性交すると言うことはつまり、相手が必要になるのだ。 「ならば一刻も早く手配するんじゃ。この子どもはもう、限界に近付いておる」  ハチの呼吸は先ほどよりもか細くなっており、今にも意識を失いそうに見える。  早く対処しなければ、すぐにでも死んでしまうだろう。 「では早速。これから娼館に連絡をしますから、娼婦が来るのは夕方になってしまうかもしれませんが」 「そりゃいかん。夕方まで待たされたら、この子は死んでしまう。そうじゃ、ヘイス。お前男もイケる口だろう?」 「えぇっ! お師匠さま、なぜそれを!」  隠していた己の性癖を師匠に突かれ、ヘイスは大いに狼狽えた。 「お前は隠しているようじゃがな、そんなことはとっくにお見通しよ。娼婦を呼ぶのに時間がかかるのなら、お前が相手してやるがよい」 「えぇぇ……ですが僕は……」  男もイケる口と言うよりも、実は男しかイケないヘイス。  しかしまだ小さな子どもにしか見えないハチに、彼よりも大柄な自分が跨がる姿など想像もつかなかった。  自分は組み敷かれてアンアン言うのが性癖なのであって、上に乗って腰を振るのは好みではない。 ――できれば辞退したい……。  とヘイスは思った。心の底から。 「別に最後までしろとは言っておらん。手でも口でも使って、最後まで精液を出させてやればよかろうて」 「それならばできそうですが……でもこんな子ども相手だと、罪悪感を通り越して背徳感すら感じますね」  ハチが十九の若者であることを知らないヘイスは大いに躊躇(ためら)ったが、それでも人助けだと腹を括ることにした。 「わかりました、じゃあこれから」 「いや、それは俺がやろう」  そう言ったのはラドバウトだった。 「団長? ですが」 「お前に嫌々やらせるのは忍びない。団長の俺に任せておけ」 「団長……」  男らしくキッパリ決断する姿に感激しきりのヘイスだが、実のところラドバウトはハチが自分以外の誰かに触られるのが嫌だっただけなのだ。  それにしても……とラドバウトは内心独りごちる。  つい一時間ほど前に出会ったばかりだと言うのに、なぜかハチが気になって仕方ない。  見ればみるほど奇妙きてれつ極まりない人物なのだが、“魔神”と恐れられる自分に一切尻込みせず、表情をくるくると変える様が実にかわいらしい。そんな姿をずっと見ていたいとさえ思ってしまう。  だから、かわいいハチにヘイスが触れると考えただけで、どうにも我慢ができなくなってしまった。  今まで自分の中にはなかった嫉妬めいた感情に、ラドバウトは内心驚きを隠せない。 「そうじゃのぅ……まぁどちらでもよい。肝心なのは、一刻も早くこの子の精を出し切らせてやることじゃ」  ラドバウトはコクリと頷いて、ハチをソッと抱き上げた。  ハチはまだほんの少しだけ意識があるようで、潤んだ目でラドバウトをジッと見つめている。 「安心しろ。お前のことは俺が助けてやる」  そう言うとハチの口角が少しだけ上がった。 「では」 「任せましたぞ。われらはその間に、別の方法がないかを探ってみよう」 「頼みました」  ラドバウトはハチを抱えたまま、己の政務室へと向かったのだった。  その背中を静かに見送ったマルセルとヘイス。 「……お師匠さま」 「なんじゃ」 「あの子ども、本当に大丈夫なんですかね?」 「恐らく大丈夫じゃろう。きっと、多分」 「……」 「胡乱な目で見るでない。仕方なかろう、儂だとて初めて接する異世界人じゃ。わからんこともたくさんある。それを調べるために、今から書庫に行くぞ」 「わかりました」 「なんじゃ、その浮かない顔は。まだ心配事でもあるのか?」 「いえ、その……子どもが壊れてしまわないか心配で」 「ラドバウト団長がどれほど強いといっても、子どもを壊すような扱いはせんじゃろ」 「それはそうなんですけど……団長は巨根で絶倫な方ですから」 「……なぜおぬしがそれを知っておるんじゃ。まさかと思うが」 「ちっ、違いますっ!! 僕は職場恋愛はしない主義ですからっ!! 団長と以前寝たことのある人間に聞いたんですよ。あり得ないくらいの大きさだったって」 「ふぅむ……なるほど、あんなにも小さい子どもの尻に入れたら、壊れてしまうかもしれんなぁ」 「と思いますよね! だから僕は心配で……」 「しかしまぁ、今はラドバウト団長に任せるよりほかあるまい。恐らくは手と口で処理してくれることじゃろう……それでも一応、万一に備えて裂傷によく効く薬を用意しておくかのぉ」 「はぁ……」  ラドバウトが消えて行った扉を見つめながら、ハチの尻が無事でありますよう祈るヘイスであった。 **********  ラドバウトは執務室に入ると、奥にある扉を開けた。  そこは仮眠室となっており、一人用の簡易ベッドが備え付けてあるのだ。  簡易とは言っても、兵舎にあるベッドとはまるで違う。大柄で体重の重い兵士が乗っても耐えられる、頑丈なものである。  ちなみにこの上で激しい運動をしても壊れないことは、以前実証済みだ。  ……どんな運動だったのか、今は言及しないでおこう。  とにもかくにもハチである。  未だ意識を保っているものの、熱はどんどんと上がる一方。体に力が入らないようで、グッタリとしたまま身動(みじろ)ぎ一つしない。  苦しそうに「みず……」と呻く(さま)があまりにも哀れで、ラドバウトは一刻も早くハチを救うんだと決意した。  ハチの身をソッと横たえると、彼は大きく息を吐いた。ため息か、それとも安堵か。  ラドバウトを見つめて、何か言いたげなハチの頭を撫で 「これからお前を楽にしてやるから、全て俺に任せてくれないか」  そう告げると、ハチはコクリと頷いた。  これで了諾は取った。  いくら非常事態とは言え、小さな子どもの精を搾り取るのだ。なんの承諾も得ないまま()に及ぶのは、いくら“魔神”と名高いラドバウトとは言え、後ろめたい気分がしていたので、ハチが首肯したことに彼はホッとした。 「決して痛いことはしない。これが済めばお前の体は楽になるから、少しの間我慢していてくれ」  ラドバウトは腰のベルトを外すと、ズボンを脱がせにかかった。

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