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お武家さま なにゆえ魔羅を 扱くんで?

 ズボンは脱がせたものの、膝丈まであるシャツのせいで、秘められた場所はまだ見えない。  邪魔だな……とは思いつつも、これはこれでなかなかいい、とラドバウトは独りごちた。 「ハチ、いいか」  そう言われて「うん」と返答したハチではあったが、実はよくわかっていなかった。  熱のせいで頭がボーッとして、ラドバウトとマルセルの話がよく聞こえていなかったたため、これから何が起きるか全くもって理解していなかったのである。  ただラドバウトが「決して痛いことはしない」「これで体が楽になる」と言ったことだけを信じて、彼に身を任せたのだ。  ラドバウトはハチの着ているシャツを捲り上げて……目を丸くした。  てっきり下着(パンツ)も取り替えたと思っていたのに、そこにあったのは奇妙な白い下着。ハチの尻を丸出しにしていた、あの褌である。 「下着は替えなかったのか?」  実はハチ、下着も穿こうと思ったもののサイズがあまりに大きすぎて、手を離すとストンと落ちてしまうのがどうにもこうにも我慢できず、褌を締め直したのである。 「しかしこれは……どうやって脱がせたらいい?」  ラドバウトが褌をグイグイ引っ張ると、前の布が少し緩んでスルリと中に手が入った。そこから()()をむんずと掴んで出してやると、かわいらしい大きさのハチ公がひょっこり姿を現した。  まだ皮を纏っている子どもサイズのチンコに、ラドバウトは目眩がした。 ――まだ毛も生えそろっていない子どもに、これからアレコレしてしまうのか、俺は……。  先ほど褌の中に手を入れた際、そこにあまり毛が生えていないことが確認できた。それだけに余計、小さな子どもを犯す罪悪感が重くのしかかる。  しかし何度も繰り返すようだが、ハチは十九歳。  生まれつき体毛が薄い体質ではあるが、しっかり生え揃った立派な大人である。  ラドバウトが子どもと感じてしまった原因は(ひとえ)に、脱毛・除毛の効果なのだ。  江戸時代、ハチのような肉体労働者は常日頃から季節を問わず、(しょ)っぱしょり――つまり褌丸見え、尻丸出しの格好で仕事をするのが当たり前であった。  そこで気になるのがシモの毛だ。  褌から毛がワサワサとはみ出すのは目に悪い。気持ちが悪い。()()()じゃないやと白い目を向けられる。  (いき)()()()をこよなく愛する江戸っ子だ。野暮天なんて言われちゃならぬと、軽石で擦ったり線香であぶったり、湯屋に必ず置いてある毛切り石と毛抜きを使って、毛の処理に勤しんだのだ。  ハチもまた、そんな江戸っ子の一人。  当然のように毎日のお手入れを欠かさず、結果ラドバウト曰く「小さな子ども」のような股ぐらをしている……と言うのが真相だ。  しかし江戸っ子の脱毛事情など知らないラドバウトは、ハチを前に密かに懊悩した。 ――しかもこんな小さい体で、俺のブツを受け入れるのは無理だな。やはり最後までせずに、精を搾り取ろう。  ラドバウトは手と口を使って、ハチの精を搾り取ろうと決意した。  男の感じる所は、男である自分が一番よくわかっている。あっという間にハチの魔力過多を解消できる自信があった。 ――これまでさんざん、男を抱いてきた甲斐があったと言うものだ。  ラドバウトは心の中でソッと独りごちる。  この男、ヘイスと違って女性もイける口なのだが、男性は妊娠の心配がないから安心と、最近ではもっぱら男ばかりを組み敷いていた。  名門伯爵家という出自に加え、自分の力で地位も名誉も財産までをも掴み取ったラドバウトだけに、望まぬ子どもや結婚は避けたいというのが実情だ。ただそれだけの理由で男を抱いてきたのだが、おかげで同性同士の行為に嫌悪感を抱くことなく、ハチの不調を解消してやることができる。 「では始めるぞ」  ラドバウトがハチのハチ公を手のひらで包んでやると、ハチの体がピクリと震えた。  上下に緩く扱き始めると、柔らかかったそこが次第に大きく膨らんでいく。 ――思ったよりも、案外硬いな。  小さい割に鋼のような硬さを持つハチのハチ公に、ラドバウトは驚いた。  自分が知る男は誰も、大きさの点ではハチを上回るものの、最高潮に達してもハチほど硬くはならない。  人種差なのか、はたまた住む世界の違いなのか。   ――この年齢でこれだけの硬さだとすると、大人になったらさぞ女泣かせになるだろうな。  ハチを十歳前後と信じてやまないラドバウトは、そんなことを考えながらも手は止めずに、ハチ公を扱き続けた。 「ふっ、うぁっ……」  ラドバウトに翻弄されて、小さく喘ぎ続けるハチ。  彼はなぜラドバウトが(おのれ)の魔羅を扱いているのか、ちっともさっぱり理解できないものの、あまりの気持ちよさに我を忘れて快感を貪った。  大人のハチは当然、自慰行為をしたことがある。と言うよりも、ほぼ自慰行為で欲求を解消していた。  一応女性との交渉もあるにはあったが、それはたった一度きり。  吉蔵に連れて行かれた岡場所で、遊女に相手をしてもらったのが最初で最後の行為である。  そこで行われたのは、なんというか……こう、よくわからないものだった。  緊張しながら「初めてだ」と伝えると、相方の遊女がいきなりハチに跨がって、線香が終わりを告げるまで腰を振りたくり続けたのだ。  自分よりも大柄な、ポッチャリと言うよりデップリとした女性に激しく押し潰され、気持ちいいと言うよりも苦しさばかりが募った。  結局達することはできずに終わり、吉蔵にそれを愚痴ると「吉原の遊女はもっといい女揃い」と言われたが、ご公儀公認の吉原は何しろ揚代(りょうきん)がべらぼうに高い。貧乏人のハチには到底手の出る場所ではないのだ。  かと言って岡場所もそこそこの値は張るし、小舟の中で春を(ひさ)ぐ“舟まんじゅう”と呼ばれる娼婦や夜鷹じゃ味気ない。  欲を解消したいという気持ちが第一ではあるが、それ以上にちょっとでいいから手を握ったり話をしたり、要するに女の子とイチャイチャしてみたいと言う気のほうが強かった。  いつか女の子と手を繋いで、飛鳥山の桜を見に行きたい。できればそれは、いちょう長屋のおしずちゃんと……そんなことを夢見ながら、ムラムラが限界に達したときは右手に頑張ってもらってきたのである。  そんな、ほぼ自分の右手しか知らないハチ公に今、大きな転機が訪れた。  ラドバウトの巨大な手にスッポリと包み込まれ、竿の先から付け根のあたりまで満遍なく刺激されているのだ。  この男、さすがに場数を踏んでいるだけのことはあるようで、ハチのいいところを徹底的に攻めてくる。そんなラドバウトに、ハチはなすすべもなく翻弄され続けた。 「ん、くっ……はぁっ、あっ、あっ!」  こんな体験は初めてだった。  自分の右手以外で、こんなに気持ちいいと感じるなんて……あまりの快感に、女のように喘ぐことしかできない。 「あっ、おいらもう……」  終わりは突然やってきた。  腰の辺りがムズムズと疼き、射精感がこみ上げる。 「いい子だ、そのままイッてしまえ」  ラドバウトの言葉が終わるか終わらないかのうちに、ハチのハチ公は一度目の白濁を吹き上げた。 「はぁっ……はぁっ……」  息が上がる。  呼吸が全く整わない。  苦しい……なのになぜか、先ほどよりも体が軽くなっている。 「具合はどうだ」 「あ……ちょっと、楽になりやした」 「それはよかった」  思わず破顔したラドバウトに、ハチはなぜか胸がときめいた。 「でも、なんで……?」  この人は自分の魔羅を扱いたのだろう。しかも具合が悪い最中だというのに。  冷静になって考えれば、鬼のような所業である。 ――それとも具合が悪くなったら精水を出すってのが、異人の治療法なのか?  黒船の国には、日本と違う医療技術があってもおかしくないだろう。ハチはそう考えて、自分を納得させた。 「しかしまだ熱いな」  ハチの額に手を当てたラドバウトがポツリと呟く。眉間に皺が寄り、厳めしい顔なのに、相変わらずの大層な男振りである。 ――仁王さまみてぇに凜々しいお人だな。  童顔で子どもっぽい顔立ちのハチは、金剛力士像のような逞しい男に、昔から憧れている。  目の前の男の顔を見ているだけでドキドキが止まらず、目が全く離せない。  ポーッとした目で(おのれ)を見つめるハチに気付いたラドバウトは、まだ熱で苦しいのだろうと勘違いして、もう一度精を出してやることにした。 「ハチ。俺がお前の体を治してやるからな」 「へ? あ、ありがとうぞんじまぁぁっ!? お、お武家さまっ、なんでまたおいらの魔羅を握るんですかい!?」 「オブケ?」  ハチにしてみれば、刀を持っているのは武士である。初めて会ったときに剣を向けてきた彼を、ハチは武士だと思ったのだが。 「誰だ、それは」  オブケという男と間違えられたと誤解したラドバウトが、急に苛立った表情を浮かべた。なぜ彼が不機嫌になったのかわからないハチは、首を傾げた。 「俺の名はラドバウトだ。医療行為とはいえ、ベッドの中でほかの男の名を呼ばれるのは業腹だ。ラドバウトと、俺の名を呼べ」 「らど、ばうと?」 「そうだ、ラドバウトだ。呼びづらかったらラドでもいい」 「らど……ラド……」 「そうだ、ラドだ。いい子だな」 「ラド……って、だから! なんで魔羅を扱くんですかい!」 「まだまだ魔力が残っているだろうからな。全部出し切るぞ」 「だから魔力ってなんでぇって、あっ!! あっ、ひいいっ!!」  わけがわからず、それでも与えられた刺激に溺れたハチは、精液が一滴も出なくなるまで、ラドバウトに翻弄され続けたのであった。

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