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間男は 貴様かヘイス よし成敗!

 棒手振(ぼてふ)りハチの朝早い。  まだ夜が明け切らぬうちに目を覚まし、夜明けと同時に天秤担いで市場へ向かう。商品を買い付けると、今度は威勢のよい掛け声を出しながら、通りを売り歩くのだ。  六兵衛の代わりを務めるようになって以来、身についた習性はなかなか抜けるものではなく、今日もハチは夜明け前に目を覚ましてしまった。 「ううううう……」  目が覚めたはいいが、体がダルくて動けない。  それもそのはず。  精水を一滴残らず出し切るまで、ラドバウトに翻弄され続けたのだ。体がクタクタに疲れ切って当然である。  それでもなんとか、気合いと根性で起き上がったのだが。 「なんだ、もう起きたのか?」  ハチが動いた拍子にラドバウトも目を覚ましてしまった。  寝惚け(まなこ)で髪をかき上げる仕草がヤケに色っぽくて、ハチは胸がドキドキしてしまう。 ――おいらさっきまで、この人と……。  あまりにも強烈な体験だった。  魔羅を扱かれ続けて、何度精水を放ったかわからない。  ハチはもう限界だと思った。過ぎる快感は、気持ちいいを通り越してむしろ辛いのである。 『だんなぁ、おいらもうっ』 『ラドと呼べと言っただろ?』  そう言ってハチの頬にキスをして、首筋を()むラドバウト。  ハチの痴態に興奮した彼は、魔羅を扱きながらハチの体中を撫で回し、舐め回し、甘噛みを繰り返した。特に散々いじられた乳首と乳輪は、ぷっくりと腫れ上がって厭らしさを増している。  乳首だけではない。ハチの体には無数の赤い鬱血痕と歯形が残されており、ラドバウトがどれだけ興奮し、執着したかが一目でわかるほど。  知らない者が見たらギョッとすること間違いなしの、大惨事である。  他人とこういった行為をするのがほぼ初めてのハチに対して、鬼のような所業。  さすがは“魔神”とでも言うべきか。 『お前が大人なら()()に入れて、後ろでアンアン啼かせるのだがな』  ハチの菊門をスルリと撫でるラドバウト。  彼もまた、ハチの痴態に煽られて、ナニがはち切れんばかりになっていた。  しかしハチの慎ましやかな菊門や小さな口に巨大な陰茎を突き入れるのは忍びなく、彼はハチ公と(おのれ)のブツをピタリと合わせて一緒に扱いたり、素股をしたりしながら、思う存分欲を吐き出したのだ。  おかげでハチは全身が汗と精水で、ドロドロのベタベタである。  それも次第に色が薄くなり始め、量だって大分少なくなってきた。 『もっ……でない……』  なおも愛撫の手を緩めることのないラドバウトに、ハチはやめてくれと懇願した。 『だがマルセル殿は、最後の一滴まで絞り出すと言っていたからな。ハチはまだまだ出せるだろう? これは医療行為でお前のためなんだから、もう少し我慢してくれ』  途中からは明らかに医療行為を逸脱しているのだが、ハチの体にまだまだ触れていたいラドバウトはそんなことを言ってハチ公を握り直した。  しかし延々と手淫を続けていられるわけもなく、ハチのハチ公は摩擦ですっかり赤くなっている。痛々しそうなその姿に、『これでは痛いな』と心配そうに言うラドバウトに、ハチはようやく行為の終わりを予感したのだが。  ラドバウトは突然口を開けて、ハチの魔羅を丸飲みにしたのだった。 『……っ!!』  初めての口淫に、言葉も出ないほど驚くハチ。  ラドバウトの暖かく(ぬめ)った口の中で、小さくしょぼくれていたハチ公が元気を取り戻す。  熱い舌で陰茎全体を優しく刺激され、ハチ公はあっと言う間に立ち上がってしまった。  しかし、これまであまりにもいじり倒されたせいで、ハチとハチ公は限界だった。 『もっ、おいら、ほんとむりっ……』  もう本当にやめて欲しいと、涙ながらに訴えたのだが 『でも全部出しきらないと、また熱が上がるだろう?』  困るのはお前だぞ……と敢えなく却下されて、その後はラドバウトの口の中で最後の一滴まで搾り取られて、気絶するように寝てしまったのだった。 ――あんな(すげ)ぇの、初めてだった……。  唯一の性行為は苦しいだけで終わった。  そして二度目の性行為は気持ちいいを通り越して、凄いしか出てこない。  体調はすっかり元通り。熱っぽさも吐き気も、目眩すらない。  ただ過度な運動に、体力が全く戻っていないだけだ。  気付けばあれだけドロドロだった体が、さっぱりとしている。  事後にラドバウトが拭き清めたのだろう。  それでもやっぱり。 ――湯に入ってサッパリしてぇ……。  どんなに綺麗に拭かれようと、やはりハチは江戸っ子。日本人である。  一日に一度も湯を使わないのは、なんだか気持ちが悪いのだ。 ――とりあえずここを出て、誰かに湯屋の場所でも聞くか。  そう決めて寝床をゴソゴソ這い出したのだが、目を覚ましたラドバウトに再び抱き込まれてしまった。 「まだ起きるには早いぞ。もう少し寝ていろ」 「でっ、でもおいら、湯に入りたくて」 「ならば後で誰かに用意させるから」  そう言ってハチを抱き込んだラドバウト。ほどなくスゥスゥと寝息が聞こえてきた。 「ちょっと、ラドのだんな!」  体を離してもらおうとラドバウトを呼んだが、彼はすっかり夢の中。ちっとも起きやしないではないか。  無理矢理抜け出そうにもガッチリとホールドされて身動きが取れない。疲れ切っていたハチは、ラドバウトの心地よい体温と寝息に包まれたおかげで、次第にウトウトしてしまい、結局二度寝をしてしまった……というわけだ。  次に目を覚ましたのは、お天道さまがちょうど真上に来た頃。  リーンゴーンとどこからか、澄んだ鐘の音が聞こえてくる。最初に目覚めたとき隣にいたラドバウトの姿が、今はない。  ムクリと起き上がったハチは、あくびと共に大きな伸びを一つして、それから窓の外をぼんやり眺めた。  外には揃いの稽古着に身を包んだ団員たちが、歩いているのが見える。 ――おいら、こんなところで寝てていいのかな……。  いつも早朝から働いているハチは、この時間まで寝ていることに罪悪感を覚え始めた。  とにかく寝床から這い出さないことには落ち着かない。  布団よりも随分と高さのあるベッドからソロリと降りて……。 「……っ!?」  床に立ったハチは愕然とした。足がガクガクと震えて、その場に崩れ落ちたのだ。 ――おいらの足、どうかしちまったのか!?  ラドバウトに昨夜さんざんかわいがられたせいで、足腰に力が入らなくなったことに、ハチは気付いていない。それでもなんとか根性で、着物を探して部屋を歩き回った。  コンコンとノックの音が響き、「ハチくん、入るよ」とドアの向こうから声が聞こえた。  聞き覚えのある声。これはたしか、ラドバウトと一緒にいた侍だと気が付いて「へぇ、どうぞお入りくだせぇ」と返答をする。 「ハチくん、体の具合は……」  そう言って入ってきたヘイスは、ハチの格好を見てギョッとした。  慌ててドアを閉めると 「ちょっとハチくん! なんで裸なの!?」  と焦った声で叫んだ。  そう……ハチは今、素っ裸の状態で着物を探していたのだ。  人前で全裸になることに違和感や罪悪感を覚えないハチは、ヘイスの反応が不思議でならない。 「おいら着る物を探してたんで」 「それならテーブルの上にあるだろう!?」  見回すと部屋の中央に置かれた台の上に、白いシャツと紺色の半ズボンが置いてある。  ハチのために急遽用意された、子ども用の服だった。 「とにかくそれを着て! ちゃんと着終えたら声をかけてね!」 「へぇ、承知しやした」  シャツに袖を通し、ズボンを穿く。  ボタンやベルトはわからないが、袖を通せば羽織れるシャツと股引(ももひき)に似た形のズボンは、迷うことなく着用できた。  しかし。 「お武家さま、着替え終わりやした」  ヘイスの名を知らないハチは、とりあえず彼のことも“お武家さま”と呼んでみた。  当のヘイスは、オブケさまとは……? と一瞬考えたものの、今は部屋に入るほうが先決だと思い直してドアを開けた。  部屋に入ると、今度はきちんと衣服を着込んだハチの姿があり、ヘイスは心の底から安堵した。 「あぁ、ちゃんと着られたね。いくら部屋の中だからと言って、裸で歩き回ってはいけないよ……ってハチくん! なんでボタンをしてないの!?」  昨日同様、ボタンの留め方をわからないハチは、シャツを羽織っただけの状態であった。  (はだ)けたシャツの(あわい)から、無数のキスマークと噛み痕が見て取れる。 「うわぁ……団長、いくらなんでもこれはやり過ぎなんじゃ……」  あまりの惨状に思わずドン引くヘイス。  と、そのとき。 「ヘイス……」  背後で地を這うような低い声がした。 「ヒッ! 団長!?」  全く気配を感じさせずに己の背後を取ったラドバウトに、ヘイスは心臓が飛び出るほど驚いた。 「すっすみません、いらしていたことに全く気付きませんでした!」 「いや、それはいい……それよりお前、ハチの肌を見ただろう……」  背後から、殺気が漂ってくる。  恐ろしい魔物をも一刀に臥した、覚えのある殺気が……である。  ヘイスは死を予感した。 「ちっ、ちがっ! これは不可抗力で!!」 「ほぅ……? ああ、それからお前、さっきハチにオブケと呼ばれていたなぁ」 「えっ? あ、はい。なんかそんなふうに呼んでいたようですが」 「お前がオブケだったのか」  それは昨夜、ハチがベッドの中で呼んだ名であった。  お武家が武士、つまり刀を持ったラドバウトたちに対して使った言葉であることを知らない彼は、かわいいハチとヘイスの間に何かあったのではと、疑いの眼差しを向けたのだ。  冷静に考えれば、ハチがヘイスと二人きりになる暇などなかったとわかるはず。にもかかわらず、ハチに心奪われて熱くなったラドバウトは、そのことに全く気付かない。 「ヘイス」 「は……はぃ……」 「少しあちらで、話をしようじゃないか」  ボキボキと、ラドバウトの指が鳴る。 「あのっ、話はここでも」 「もっと広い場所の方が、いろいろと話やすいだろう? そう、いろいろと……な」  ヘイスの首根っこをムンズと掴んだラドバウト。 「ハチ、いい子にして待っているんだぞ。誰かが来ても決してドアを開けないように。それから俺が帰ったらちゃんとボタンをはめてやるから、もう少し待っていてくれ」  ハチにそう言い残すと、ヘイスを引きずってどこかへと消えて行ったのである。

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