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ハチ絶句 やっぱり江戸に 帰りてぇ……

 ようやく泣き止んだハチを、ラドバウトは自宅へと連れ帰った。  ハチは騎士団詰め所の仮眠室で寝ると言ったのだが、ラドバウトがそれを許さなかったのだ。 「寝ている間に誰か侵入してきたらどうするのだ」  仮眠室には鍵がかかるようになってはいるものの、団員ならばそれをぶち破れるだけの力がある。  パワーのない魔術師だって、攻撃魔法をかければ簡単に扉を破壊できるのだ。 「かわいいハチがほかの男に襲われたりしたら……」  要するにラドバウトは、ハチがほかの男に触られるのを警戒しているのだ。 「とにかく俺の家に行こう。ベッドのマットだって仮眠室のものより立派だから、寝心地がいいぞ」 「へぇ……」 「それにこんな状態のハチを、一人にしてはおけないからな」 「だんな……」  ラドバウトの真摯な表情に心が揺れて、頷いたまではよかったが。 「汚ぇ…………」  先ほどまでのしんみりした気持ちが、いっぺんに吹き飛ぶような光景が目の前に広がっていて、ハチは思わず絶句した。  そこはまさに、男の一人暮らしを体現したような部屋だったのだ。  玄関は大量の靴が乱雑に放置され、部屋のあちこちに武器が散乱し、ソファの上には脱いだ衣服が(うずたか)く積み上げられていた。テーブルの上は新聞や雑誌、飲み終えた後のコップで埋まり、床には酒瓶がいくつも転がっている。キッチンは見ていないが、おそらく悲惨なものだろう。 「……」  きれい好きのハチには、到底考えられない有様だ。  あまりの惨状に、ハチは死んだ魚のような目になってしまった。  ラドバウト自身が美丈夫極まりない男なだけに、汚らしい部屋とのギャップが物凄すぎる。 「なんでこんな状態になるまで、放っておいたんですかい……」 「いや……最近少し、忙しくてな……」 「忙しくったって片付けくらいできるでしょうに。だんな、もしかして掃除が嫌いなんですかい?」 「うっ……」  ハチの言うとおりだった。  しかしそれは、彼の出自を考えると無理もない話なわけで。  ラドバウトはもともと、名門貴族のお坊ちゃんである。  家事をするのは使用人の役目。彼は塵一つ自分では拾ったことのない生活を送っていたのだ。  家督を弟に譲って騎士団に入った後は、実家の援助は全て断り、以降は自分一人の力で生きてきた。  なんでも器用にこなして、順調な出世を遂げるラドバウト。やがて人々から賞賛されるほどの大人物になったのだが、不思議なことに家事の技能だけはちっともさっぱり上がらなかったのである。  だがそんな状態でも、なんとかかんとか生きてはいける。  食事は詰め所にある食堂や、街の飲食店で済ませればいい。  洗濯はある程度溜まったら洗濯屋に持って行く。  しかし掃除だけはいかんともしがたい。  騎士団で掃除の仕方だけは教わったのだが、なんとも面倒くさすぎてやる気が出ない。  整理整頓も同様だ。  通いの家政婦を雇ったこともあったのだが、彼が身に付けた未洗濯状態の下着や衣服を盗まれたり、抱いてくれと迫られたり、(ろく)なことがない。  面倒ごとを嫌がったラドバウトは、家政婦を雇うことをやめたのだ。  その結果、家の中がまるでゴミ溜めのようになってしまった……というわけである。 「と、とにかく今日はもう遅いから、そろそろ休もう」 「へぇ……」 「寝室はここよりも綺麗だから安心しろ!」    その言葉に偽りはなかった。  ただし“非情に悲惨”な、状態が“ちょっと悲惨”に変わった程度だが。  タダで泊めてもらえるんだ。文句は言わねぇ……ハチはこの現実から目を逸らし、大人の対応を取ることに決めた。 「あっ、でもラドのだんな。おいら寝る前に、湯に浸かりてぇんですけど」  結局昨日から一度も風呂に入っていない。  ハチの我慢は限界だった。 「湯? それならすぐに使えるぞ」  ラドバウトはハチを連れてシャワールームに向かった。  この家のどこよりも小さな部屋に入ってみると、中には見たこともない容器と謎のブラシが置いてある。 「ラドのだんな。ここは?」 「シャワールームだ。汗を洗い流せるぞ」 「……湯船はどこですかい?」 「ユブネ?」 「湯を溜めて、そこに体を浸けて温まるんですよ」 「なぜ湯に体を浸けるんだ?」 「……」 「……」  聖バームスロット王国には、湯船に入って体を温めるという習慣はない。風呂といえばシャワーである。  しかし江戸っ子ハチの風呂と言えば、当然銭湯……湯屋である。  熱い湯をたっぷり張った湯船にドボンと入って、体の芯まで温まる、それがハチの入浴なのだ。  だから湯船を期待したのだが、ラドバウトの表情を見ていると、どうやら入浴方法が違うらしいことが窺える。 ――やっぱりおいら、江戸に帰りてぇ……。  ハチは何度目ともつかぬ望郷の念を、再び抱いたのだった。  しかし、ないものは仕方ない。  ハチはラドバウトに教えられた“しゃわあ”とやらを使って身を清めることにした。 「このボタンを押せば湯が出る。止めたいときはもう一度ボタンを押せばいい」 「へぇ」 「シャンプーはこれ。リンスはこっち。ボディソープはここだから」 「しゃんぷう? りんす?」 「エドにはなかったのか?」 「へぇ」 「これはショーゴさまがこの国に降りられた際に、伝えてくれたものらしいのだが」  どうやらショーゴと言う人物は、ハチが生きてきた江戸よりもっと新しい時代で暮らしていた人物のようだ。  それまで石けんしかなかった聖バームスロット王国に、シャンプーリンス、ボディソープのほかにシャワーまでをも(もたら)して、それまでは濡れた布で体を拭くだけだったこの国の入浴事情を、一気に変えたのだ。 「出たところにタオルを置いておくから、終わったらそれで体を拭くんだ」 「タオル!」  あのモコモコフワフワの布を触れると思ったハチの機嫌は、一気に急上昇した。 「着替えも置いておくからな」 「へぇ! あ、それからこのボタンとか言うやつを、外してもらいてぇんですが」 「む。そうか」  乞われるがままにボタンを外すラドバウト。少しずつ顕わになるハチの肌に、欲望がムラムラと沸き立ってくる。  しかし思い出すのは「帰りてぇよぉ」と悲痛な叫びを上げるハチの顔。 ――ハチのためにも今は我慢だ。  ハチに襲いかかりそうな自分をなんとか押さえ込みながら、全てボタンを外し終えた。 「何かあったら声をかけるんだぞ」  そう言って風呂場を後にしたラドバウトだったが。 「ラドのだんなぁ……」  風呂場からハチの声がした。 「どうした、ハチ?」  ラドバウトが向かうと、そこには全裸のまま困った顔で佇むハチの姿が。  肌に残った無数の鬱血痕と歯形が痛ましく、また厭らしい。  小さくてかわいらしい股間を隠そうともせず「湯が出ねぇんで……」と呟いた。  動いた拍子にハチのハチ公がフルリと揺れる。  その様子に、ラドバウトの股間がカッと熱くなった。 「だんな? どうしたんで?」 「い、いや。なんでもないぞ!」  不思議そうに見上げるハチに、ラドバウトは(かぶり)を振って「なんでもない」と繰り返した。 「それより湯が出ないだと?」 「へぇ。このボタンを触っても、うんともすんとも言わねぇんです」 「おかしいな」  ラドバウトが試しに押してみると。  シャーーーーーーーーーッ。  お湯が勢いよく出てきて、ハチとラドバウトの体を濡らした。 「うわっ!」  突然降り注いだ湯をまともに浴びて、ハチは頭から水浸しになった。  一方のラドバウトも、服がビショビショだ。 「……出たな」 「……出やがりましたねぇ」  首を傾げる二人。 「あ、そうか! このシャワーは魔力で発動するようになっているからだ」  電気のない聖バームスロット王国では、シャワーだけでなく水道やコンロといった家庭用器具の類いは全て、魔力を流すことは前述のとおり。  この仕組みを考えたのもショーゴさまなのだが、便利に思えたこのシステムにも唯一最大の難点があった。  魔力を流せない者は、使用できないのである。  この世界の者ならば種族を問わず、ボタンに魔力を流し込むことができる。しかし魔力はあっても、それを外に出すことができないハチには当然、使うことができない。 「ハチはシャワーが使えないのか」 「そんなぁ……あっ、それじゃ(たらい)かなんかがあったら、それを貸してもらえませんかね。そこに湯を入れてもらったら、一人でも入れるんで」 「そんなもの、うちにはないな」  ハチはこの世の終わりが来たような表情で、声なき悲鳴を上げた。 「おいらやっぱり、江戸に帰りてぇ……」  その呟きにギョッとしたのはラドバウトだ。  シャワーごときでエドを恋しがられても困る。ハチにはいつまでも自分の側にいてほしい。  しばし悩んだ彼は、おもむろに服を脱ぎだした。 「だんな?」 「ハチがシャワーを使えないなら、俺も一緒に入ればいい」  ボタンに魔力を流し込めるラドバウトがいれば、シャワー問題は一気に解決だ。  もともと湯屋で不特定多数の人たちと一緒に入浴をしてきたハチだから、ラドバウトと一緒にシャワーを浴びるのも気にしない。  男二人で入るには少し狭いが、湯を浴びれるならそれでいい……そう思って承諾をしたのだが。 「あっ、ラドのだんな! なんでまた魔羅に触るんですかい!?」  狭い空間に裸のハチと二人きり。  この倒錯的な状況に、ラドバウトの理性はあっという間に決壊した。  案外、意志の弱い男である。 「ハチのここは皮を被っているだろう? ここを剥いて洗わないと、中に汚れが溜まって病気になるからな」 「そんな病気、おいら聞いたことねぇよ!」 「亀頭炎と言ってな、ここが腫れて膿が出るんだぞ」 「膿ぃ!?」 「もしもそのまま腐ったりしたらどうする」 「怖ぇよお!」 「なら大人しく洗われていろ」 「あっ、でもっ……んっ、くふぅっ……」 「ハチの亀頭はツルツルしているし、色はピンクで初々しいな。実にかわいらしい」 「もっ、洗い終わったんなら、手ぇっ、離して……ってなんでまた魔羅を咥えるんですかい!」 「このほうが細かい汚れも取れると思ってな」 「だからってぇ! (しゃく)っちゃやだあ!」 「シャク? なんだそれは」 「魔羅を食うことですよ!」 「フェラチオのことをエドではシャクと言うのか。面白いな。それよりハチ、お前シャクを知ってると言うことは、今まで誰かさせたことがあるんじゃあ……」 「ないないっ! 尺なんて一度もされたことありやせん!」  口淫に関しては、春画で得た知識しかないハチ。  慌てたように口籠もる姿を見て、フェラは俺が初体験か……と、ラドバウトはニヤリ笑った。幼子が見たら、引きつけを起こすレベルのご面相である。 「舌先でこうやって舐めてやれば……」 「嘘っ、あっやだ、それはぁっ!!」 「ほぉら、カリの付け根まで綺麗になっただろう?」 「おいらそもそも、そこは汚れてないからっ! もういい加減、やめておくんなましっ!!」 「ああ、ここはすっかり元気になったな。もう一度精を搾り取ってやろうか。また魔力が溜まっていたら大変だからな」  ラドバウトはハチ公をパクリと丸飲みすると、舌を器用に動かしながら頭を前後に振り出した。  狭いシャワールームに、ジュポジュポと淫猥な音が響き渡る。 「ひぃっ、あっ、やめっ……」  厭らしい水音にハチの強制が混じり合い、ラドバウトの股間も臨戦態勢に突入した。 「出る! 出るからあっ!」 「いいぞ、そのまま出してしまえ」 「やあっ、だめっ……あっイく、もっ、イっちまうっ…………あーーーーーーーっ!!」  汗を流すだけのはずが、まんまとラドバウトに食われてしまったハチ。  用意してもらった着替えに袖を通すことなく、ベッドの上でも散々啼かされて ――やっぱり江戸に帰りてぇ……。  と思いながら、気絶するように眠りについたのだった。

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