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もう限界 魔羅が擦れて 痛ぇんです

「どうしたんじゃ、ハチ。なんだか随分と、不機嫌そうな顔をしておるな?」  ヘイスを伴ってラドバウトの執務室に入ってきたマルセルが、開口一番そう問うた。 「……なんでもねぇです」  と答えたハチはブスっくれた仏頂面だ。  執務机ではラドバウトが書類を書き込みながら、チラチラとハチの様子を窺っている。 「ラドバウト殿。ハチに何をされたのじゃ」 「……何も。ただ医療行為を」 「それにしたって、ありゃヤリすぎってもんですぜっ!!」  ハチが怒るのも無理はない。  二晩続けてmベッドの中でハチを散々翻弄したラドバウト。 「もう出ない!」とハチが泣きを入れても「これは医療行為なんだ」と聞く耳を持たない。挿入こそはなかったものの、菊門を指で撫でられたり舌で舐められたりもしたものだ。 ――おいら、陰間じゃねぇってんだ!  尻を使うのは陰間がするものだと思っているハチは、ラドバウトの行為にすっかりお冠だ。  しかも今朝、顔を洗っているときもラドバウトに背後を取られ、「後ろ姿もそそるな」などと言われながら、朝立ちを素股で抜かれる始末。  ちなみに勃ってたのはハチではない。ラドバウトのほうだ。  ハチのハチ公は朝を迎えても慎ましやかなまま。それほどまでに搾り取られてしまったのである。  十九年間、色事とはほぼ無縁だったハチは、この二日間ですっかり爛れた生活を送っていたのである。 ――仕事もしねぇであんなことばっかり……お天道(てんと)さまに申し訳がねぇ。  子どものころから働いてきたハチは、何もしないでエロいこと三昧の二日間に、罪悪感を覚えてならない。 「なぁ、じいさん」 「じっ!? こら、ハチくん! マルセルさまとお呼びして!!」  ヘイスが慌ててハチに言うが、当のマルセルはフォッフォッと笑って 「よいよい、ハチの好きに呼べばいい」  と鷹揚にヘイスを制した。 「じゃあ、まる爺って呼んでもいいですかい?」 「あぁ。それでもよいぞ」 「なぁまる爺。本当に毎日、精水を出さなきゃならねぇんで?」 「そうじゃのう……ある程度魔力が溜まったら、定期的に出してやることは必要じゃ。そうしなければ、ハチはまた熱が上がって死んでしまう」 「死にたくねぇけど、このままじゃ精水出しすぎて干からびちまうんじゃねぇかって、不安なんでさぁ」 「ラドバウト殿……」  マルセルが呆れたような目でラドバウトを()め付ける。  ラドバウトはサッと目を逸らしたが、マルセルの視線から逃げることはできない。 「全く……黒の騎士団の“魔神”は、ベッドの中でも“魔神”じゃったということか」 「これはハチのための医療行為であると共に、この国を守るための防衛策でもありますから」  ハチの強大で純粋な魔力を狙った高位の魔物に狙われる恐れがあると、マルセルは昨日言っていた。  だからこれは魔族が王都に侵入しないための立派な防衛策なのだと、ラドバウトは主張したのだ。 「しかし物事には限度というものがある。何も毎日する必要はあるまいて」 「やっぱり毎日しなくてもいいんじゃねぇかっ!!」 「一週間に一度程度でよろしいでしょう」 「いっ? 一週間!? でもおいら、江戸にいたころは二月(ふたつき)にいっぺんくらいの割り合いで、悪い()に取り憑かれてたんですぜ。それが一週間ごとに出せなんて、早すぎやしませんかい?」 「しかし儂の見たところによると、お前さんの体にはすでにある程度の魔力が溜まっているようじゃ」 「いぃっ!?」  一昨日からずっとラドバウトに抜かれ続けていると言うのに、もう溜まっている……マルセルの言葉にハチは目眩がした。 「もしかしたらハチの体は、この世界と相性がいいのかもしれん。だからエドにいるころよりも、体が魔力をたくさん生み出してしまうんじゃろう」 「そんなぁ……」 「なんじゃ。ハチはラドバウト団長に精を出してもらうのが嫌なのか? なにか無体なことでもされておるのか?」  体力のあるラドバウトに、散々啼かされているのだ。  それはもう、無体も無体。大無体である。 「ラドバウト団長が嫌なら、ほかの者に代わってもらうという手もあるぞ?」 「マルセル殿!」  こうなるとラドバウトは必死である。 「ハチ! 俺じゃ駄目なのか? お前の嫌がることはしないし、もっと優しくするから!」  かわいいハチをほかの男に渡してなるものかと、懸命に食い下がる。まるで女房に逃げられた旦那のようだ。  これがあの“魔神”ラドバウト団長とは……自分にも他人にも厳しく、滅多に表情を変えることのないラドバウトが、小さなハチを相手に慌てふためく(さま)を見たヘイスは、密かにドン引いた。 ――団長がこんな反応をするなんて……まるで淫魔の魅了にかかった人間みたいだ。  実はハチくん淫魔だったりして、なんて一昨日のラドバウトのようなことを考えるヘイス。あの団長にして、この部下ありである。 「おいら別に、ラドの旦那でいいんです」 「ハチ!」  ラドバウトは執務机を勢いよく飛び越えて、ソファに座るハチを思い切り抱きしめた。 「ぐぇぇっ!!」 「これからも悦楽の境地を見せてやるからな!」 「それは()りやせん!」 「なぜだ!?」 「だって、ラドの旦那とすると、魔羅が(こす)れて痛くって……」  一昨日からずっと擦られ続けているハチ公は、真っ赤に腫れてヒリヒリと痛んでいるのだ。  毎回あんな調子では、いつか()り切れてもげてしまうのではないかと、ハチは内心恐怖していた。 「痛くなるまでされたのか。おぉおぉ、それは可哀想に。後で擦り傷に効く薬を用意させよう」 「まる爺、ありがとう!!」 「ラドバウト団長もこれに懲りたら、ナニが痛くなる前に止めることじゃ」 「しかしそれでは、精を搾り取ることはできますまい。あの時マルセル殿は、一滴残らず出し切るようにおっしゃいましたよね」 「あのときは非常事態じゃから仕方ない。けれど今はもう大丈夫。一週間に一度程度出してやれば、精巣が空っぽになるまで出さずとも、よくなるはずじゃ」 「はぁ……わかりました」  ラドバウトはショボンと眉を下げた。  まるで大型犬のようだな……ヘイスは心の中でそう独りごちた。 「それでハチの処遇についてじゃが」 「はい」 「実は陛下がハチを見てみたいとおっしゃいましてな」 「陛下が!?」  ラドバウトとヘイスが驚きの声を上げる。 「非公式でよいので、すぐに連れてくるようにと」 「しかしハチはまだこの国に来て間もないんですよ。陛下の前に出るための作法やマナーだってわからない。しかも服装だって」  一国の王に会うのだ。それ相応の服……つまり正装で御前に出るのは当たり前。平服で参上するのは無礼に当たる。  しかしこの国に一昨日流れて来たばかりハチには当然、正装の用意などない。 「正装を用意していない状態で、陛下にお目にかけるなどできるはずがありません」 「だから非公式というわけじゃ。ハチの現状を詳しく説明したところ、それでもよいから連れて来いとお言葉を賜っての。なのにハチを連れていかなければ、逆に不敬罪となろうて」 「そんな……」 「とにかくこれは決定事項。午後一番にハチを連れて、陛下の私室へ来るようにとのことじゃ」 「……わかりました」  ラドバウトは硬い表情で答えた。 「ラドのだんな、どうしたんで?」  一人、事態が飲み込めていないハチは、ラドバウトの顔を心配そうに覗き込んだ。 「いや……すまん。大丈夫、大丈夫だ」  ラドバウトはそう言ってハチを抱きしめたが、内心葛藤が渦巻いていた。  何も知らないハチが、王の前で粗相をしてしまうのではないかという不安。そして、それよりも。 ――ハチが陛下に囲われてしまったらどうする……。  異世界人は、この国の者に幸せを(もたら)してくれると言われている。  遠い過去、この地に降り立ったショーゴさまを始め、異世界人の多くが為政者や権力者に囲われて、その後結婚している。  王がハチを気に入って、手放さないと言ったら……。 ――陛下と言えども、ハチを渡したくはない。  たとえ誰であろうと、ハチを渡す気はさらさらない。  しかしもし逆に、ハチが王を気に入ってしまったら?  嫌な予感がどんどん沸き上がってくる。 ――ハチが俺の元を去ってしまったら、俺は……。  ラドバウトの胸に、暗い影が落ちた。

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