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第2話
株式会社ミサキインテリアは全国各地に製造会社、ショールーム、営業所を構える大手家具メーカーだ。
小売りだけではなく法人向けのコントラクト事業も手がけており、ホテルや医療施設などの内装のトータルコーディネートなども行っている。
昭和初期に創業した際は小さな工房だったが、今では毎年総売上高300億を超える大企業にまで成長した。
業績は常に右肩上がり。
表向きは順風満帆で何の問題もないように見える。
しかし、その反面内部には大きな問題を抱えていた。
それは先だって亡くなった社長に代わって新しく就任した三崎升麻 が、生まれつき重い病を患っているということだった。
先天性心疾患を抱えた升麻は、小さい頃から何度も手術や治療の為入退院を繰り返している。
治療後、人並みの生活ができる時もあるがそれも僅かな期間だけ。
直ぐに体調を崩し、病床に臥せてしまう事が多い。
その為社長就任後、まともに出社できたのは数えるほどしかなかった。
こんな病弱で情けない社長、世界中探したって自分しかいないだろう。
それは誰よりも升麻自身が一番よくわかっていることだった。
救いなのは亡くなった前社長、升麻の実の祖父の元で働いていた重役たちが、升麻に代わって必死に会社を守ってくれていることだ。
皆幼い頃から升麻の事をよく知ってくれている信頼できる者たちばかり。
彼らは昔から外に遊びに行けない升麻の話相手になってくれたり、祖父や母親の代わりに学校行事に参加してくれたりした。
良き理解者であり、また、家族のようでもある彼らがいなければ会社はあっという間に経営難に陥っていただろう。
三崎 というのは母方の性だ。
父親は升麻が生まれたとき、先天性の心疾患だとわかると直ぐに行方をくらませた。
祖父は娘である升麻の母親と升麻を呼び寄せると、何不自由のない暮らしをさせてくれた。
厳しくも優しい祖父は、尊敬できる社長でもありまた父親のような存在でもあった。
病気である事を恥じるな、胸を張って堂々と生きろと何度も升麻に言い聞かせ、励ましてくれた。
そんな祖父が突然病に倒れると、それまで考えた事もなかった問題が明るみになる。
それは次期社長を誰にするか、だった。
親族内継承が一般的な世の中、母親、もしくは母親の兄である伯父が後継者となるだろうと誰もが予想していた。
しかし祖父が告げたのは予想とは丸っ切り違うものだった。
はっきりと明確に、孫である升麻に託すと宣言したのだ。
皆驚いた。
当然だ。
いくら血の繋がった人間がやり手だからといって、必ずしもその素質が受け継がれているとは限らない。
升麻は病気のせいか昔から引っ込み思案だ。
ましてや人を導く力や決断力などもない。
その上華奢で色白。骨張った見た目は、どう考えても社長という風貌からは程遠いもの。
つまり、升麻は社長としてのポテンシャルが全く備わっていないのだ。
考え直してほしい。
当然、升麻は何度も辞退を申し入れた。
しかし、祖父は最期の最期まで頑として升麻の次期社長就任を覆えさなかった。
「升麻、病は決してお前の枷ではない。お前が思い込んでいるから枷になるんだ。お前ならきっとできる。胸を張って生きろ」
そう言い残して、升麻を置いて逝ってしまったのだ。
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