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第3話

祖父の死後、やむを得なく社長を引き継ぐことになった升麻。 だが、皆に会わせる顔がなく毎日畏縮していた。 一番気不味い相手は升麻の母の兄、伯父だった。 次期社長は彼だろうと誰もが予想していたからだ。 当然升麻もそうなると思っていたし、できるなら彼に譲りたかった。 そんな升麻に向かって伯父は言った。 「僕は高校卒業したらすぐに地方で就職したし、あまり会社にも関わって来なかったからね、気にしなくていいよ。それよりこれからのことを考えよう。僕も精一杯サポートさせてもらうからさ」」 少しの嫌味もなく笑ってそう言ってくれたあの時、この人は何て心の広い人なんだろうと思った。 「力になるから何でも言ってほしい」「家族なんだから助け合おう」とも言ってくれたのだ。 それなのに… 三日前、升麻が生死の淵から生還した時… 彼はベッドに横たわる升麻に向かってハッキリと言ったのだ。 「死に損ないのろくでなしが、早くくたばりやがれ」と。 優しいと思っていた伯父の、升麻に対する憎悪の込められた言葉。 意識が戻っていたのに目を開けていなかったことを後悔した。 だがショックを受けると同時にどこかで腑に落ちる部分も思った。 升麻はこれまで何度も生死の境を彷徨い、何とかギリギリ一命を取り留めている。 幸運にもどれも入院中ですぐに処置してもらう事ができたためだ。 処置を受けている間の事はわからないが、目を開くと毎回のように親戚や重役たちが集まっていた。 恐らく母親から連絡を受けて駆けつけてきてくれているのだろう。 身を案じてくれている事には感謝している。 しかし… たとえば自分が健康体で、升麻のような親戚がいたらどうだろうか。 いつ死ぬかわからない人間の都合で何度も呼び出され、駆けつけて、医者が「もう大丈夫だ」と言うまで何時間も病院に縛り付けられる。 それがこの先何度も続くのだ。 そんな状況で果たして皆が皆、心の底から升麻の身を案じることができるだろうか? ひねくれた考えかもしれない。 そんな風に思っているのは伯父だけかもしれない。 けれど升麻は社長という立場になったことにより、今まで考えた事もなかったことに気づいたのだ。 病を抱えた社長というのは想像以上に他人に迷惑をかけていることに。

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