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第14話

「あんた、本当にゆうずい邸希望?しずい邸と間違えてんじゃない?」 舛花の皮肉たっぷりな言葉に、の眉間にシワが寄る。 挨拶もなしにいきなり入ってきたやつにそんな事を言われたらカチンとくるのは当然だ。 だが、機嫌の悪い舛花は腕を組むと不遜な態度で骨男を見下ろし続けた。 「そっちこそ、部屋を間違えてませんか?優秀な男娼が教育係につくと聞いていたんですが、|違いますよね」 垂れた眦を持ち上げながら、骨男も負けじと言い返してくる。 絶対を強調されて、舛花は口元を歪めた。 「教えてもらう立場のくせに態度がなってねーな。そもそも挨拶くらいできねーの?」 「いきなり部屋に入ってきた人に言われたくありません。まずはあなたが手本を見せるべきでは」 「はあ?骨のくせに俺に口ごたえする気かよ」 「骨じゃありません」 投げたらしっかり投げ返してくる男に、舛花の機嫌はますます悪くなっていく。 儚げな容姿から性格も気弱だろうと決めつけていたからだ。 いや、待てよ。 急に黙り込んだ舛花に警戒したのか、骨男がビクッと肩を震わせる。 殴られると思ったのだろう。 全くさまにならないファイティングポーズをとる。 その弱々しい姿を見下ろしながら舛花は思った。 この骨男、どう見たって長続きしそうにない。 ただの興味本位で入ってきたのか、はたまた手の施しようのない借金を抱えているかわからないが、こんな軟弱そうな男が淫花廓の、ましてやゆうずい邸の男娼になるなんて絶対に無理だ。 恐らく舛花が楼主から命じられた研修にも耐えられないだろう。 もって三日…いや今日で投げ出す確率も高い。 いや、そう仕向ければいいのだ。 つまりこの骨男が研修を投げ出し、男娼になることを諦めさえすれば、舛花は晴れて自由の身になれる。 そうすればこの陰気な場所から脱出し、表舞台へ返り咲くことができる。 意地が悪いとは思ったが、一刻も早く見世に戻るにはこの方法が一番手っ取り早い、そう考えたのだ。

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