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第16話
翌日。
今日からまた見世に戻れると浮き足立っていた舛花の前に、男衆がやってきた。
「研修の時間です」
淡々とした口調で告げられて、舛花は思わず目を見開いた。
「は?嘘だろ…」
昨日の様子からして、升麻の心が折れたのは間違いないと思っていたからだ。
男衆に案内されたのは、やはり昨日と同じ蜂巣だった。
恐る恐る襖を開く。
すると昨日と全く同じ出で立ちで男が立っていた。
今にも手折れそうな華奢な後ろ姿が、舛花の気配を感じ取って振り向く。
色白の、線の細い輪郭に縁取られた小さな顔。
サラサラと揺れる前髪の奥から覗く瞳と視線が合った。
その瞬間、舛花は思わずドキッとしてしまった。
その目が強い芯を持っていたからだ。
弱々しい風貌とは対照的なギラギラとした瞳。
体格や力は圧倒的に自分の方が優っていて、殴りかかられても絶対に負ける気はしない。
だがその目には背筋がぞくりとした。
不覚にも圧倒されてしまったのだ。
「おはようございます。舛花先輩」
言葉を詰まらせる舛花より先に、升麻が口を開いた。
「今日はちゃんと教えていただけますよね?」
升麻は口元だけ綻ばせると床を指差した。
そこには昨日舛花が揶揄い半分で持ってきたダッチワイフが転がっている。
「お前…なんでまだいるんだよ」
舛花は思わず顔を顰めた。
まるで昨日の事などなかったかのような升麻の態度が妙に苛ついたからだ。
「なんでって研修を受けるためですけど」
升麻はそう言うと、入り口に立ち尽くす舛花に近づいてくる。
そして、舛花の目の前まで来るとじっと見上げてきた。
さきほど見せたあの強い眼差しが、舛花を真っ直ぐ射抜いてくる。
再び背筋がぞくりとして、着物の下の肌が粟立った。
「僕を辞めさせようと思っているなら無駄ですよ。舛花先輩」
「な…」
「僕の覚悟はあなたみたいな人に簡単に崩されたりしませんから」
升麻の言葉は眼差しと同様強かった。
何があってこだわっているのか理由はわからないが、言葉通り「何がなんでも男娼になってやる」という覚悟と強い意志を感じることができる。
舛花の眉間のシワが深くなった。
「あぁ〜…本当とことん苛つく奴だな…」
苛立ちげにガシガシと頭を掻く。
そして唐突に升麻の肩を掴むと背後の襖に押し付けた。
予想通り升麻の力は弱く、いとも容易く形勢を逆転することができた。
逃げ場を塞ぐように升麻の顔の横に手をつく。
「正直言ってお前みたいな見込みのない奴にあれこれ教えるなんて時間の無駄なんだよ。俺はセックスが好きなの。わかるか?セックス。お前がいるとそれができないわけ」
舛花は低い声で囁きながら升麻の耳元まで近づいた。
細い肩がびくりと動く。
だが、その眼差しは少しも揺らぐ気配はない。
「負けない」そう言わんばかりに、ぎゅっと拳を握りしめ、舛花を睨みつけてくる。
それがますます舛花の感情を煽った。
「それとも升麻が相手してくれんの?抱き心地は悪そうだけど、まぁそんなんぶっちゃけどうでもいいんだよね。挿れる穴さえあれば」
舛花は冷たい声色でそう言うと、升麻のシャツのボタンに手をかけた。
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