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第23話

升麻は肩を落とすと項垂れる。 すると突然ベッドが軋んで揺れた。 顔を上げると、升麻のすぐそばに服の乱れを整えた舛花が座っている。 舛花はチラリと升麻に視線を流すと気不味そうな表情をした。 「あぁ…まぁ…俺が言えた立場じゃないんだけど…その…大丈夫、だと思う」 髪をがしがしと掻きながら舛花が口を開いた。 「え…」 「楼主って無表情で堅物に見えるけど、見た目ほど冷血漢ってわけじゃないしすぐに追い出したりはしないはずだ」 「ほ…ほんとに?」 升麻の言葉に舛花は頷く。 「もし本当に楼主が血も涙もない奴なら俺なんかとっくに追い出されてる。ここだけの話、規則破って罰受けるの今月で五回目なんだぜ」 舛花はニヤリと笑うと片目を瞑ってみせた。 「あとは升麻が役に立つ人間であることを証明すればいい」 「役に立つ…?」 「そ、つまり一人前の男娼になれば体が弱かろうと何だろうと誰にも文句は言われねぇってことだ」 その言葉に升麻はハッとして舛花を見つめた。 腕を組み、唇を引き結んだその横顔はほんのり赤くなっている。 「え…じゃあ、あの…お、教えてくれるんですか?!」 升麻は思わず前のめりになると舛花の袖を掴んだ。 また冗談だと言われ揶揄われるんじゃないだろうか。 内心ドキドキしたが、舛花の表情は変わらない。 「さっきも言っただろ。お前の根性を見直したんだよ」 その瞬間、何かがプツリと切れた音がした。 それが感情の糸だと気づいたときにはすでに遅く、升麻の目から溢れた水滴が頬を伝っていた。 「わっ?!おい、なんで泣くんだよ」 舛花がぎょっとした顔で升麻を見下ろしてくる。 「だ…だって…」 次から次に溢れてくるそれをごしごしと手の甲で拭いながら升麻は言葉を詰まらせた。 「根性がある」なんて生まれて初めて言われた言葉だった。 幼い頃から病弱だった升麻はできないことが圧倒的に多く、それが当たり前の人生だったから。 周囲の|升麻《病気》だから仕方がないという空気。 そんな空気の中で生きてきた升麻は、何をするのにもどうせできないんだからとやる前から諦めていた。 しかし、ここで変わりたいと思った。 升麻の抱えているものを誰も知らないこの淫花廓でなら変わることができるかもしれない…そう思ったから。 結局舛花の前で倒れてしまい病を抱えていることを知られてしまったのだが。 だが彼はそんな升麻のコンプレックスを笑い飛ばし、努力を認めてくれた。 普通の人にとってはなんてことない言葉かもしれない。 しかし、升麻にとっては何よりも嬉しい言葉だったのだ。 「変な奴。泣くなら普通嫌がらせされてるときだろ」 舛花はそう言いながら升麻の頭に手を乗せてきた。 そのままポンポンと軽くタッチするとフッと笑みを浮かべる。 その笑顔は升麻の胸の中に何かを芽生えさせたのだった。

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