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第24話

舛花による本格的な研修が始まって一週間。 ダッチワイフを放り投げられた初日とはうって変わって、舛花は丁寧に接客マナーや所作を教えてくれている。 粗雑な口調の時もあるが、態度や眼差しは真摯的で、本気で升麻を一人前の男娼にしてやるという言葉は嘘じゃなかったんだと改めて思った。 幸いなことに研修が始まってから升麻は一度も体調を崩していなかった。 それはこのところの日々が充実しているからかもしれない、と升麻は密かに思っていた。 世間を多く知らない升麻にとって新しく何かを覚えるということは大変だったが、それ以上に新鮮で刺激的で。 左胸に抱えているものを忘れるくらい打ち込めることができている。 舛花との距離が近くなったことにより気づいたことがいくつかあった。 まず観察眼が鋭い。 升麻が少しでも表情を変えただけですぐに「どうした?」と訊ねてくる。 慣れない正座に少し足元をふらつかせると、いつの間にかすぐそばにいて支えてくれたりするのだ。 しかもごく自然に。 そこまでじっくり観察されているような気配は全くないのだが、とにかく舛花は人をよく見ている。 それともう一つ、不思議なことがあった。 初めて会った時に舛花は妙にセックスに執着していた。 升麻がいるとセックスができない。 抱き心地なんかどうでもいい、挿れる穴さえあればいい。 |淫花廓《ここ》にいるのはセックスのためだと断言までしていた。 だが升麻との研修の中で彼がセックスについて語った事は一度もなかった。 ダッチワイフを使って実技などもしたことがない。 升麻を教育するこの期間が彼にとって罰であることは知っている。 この期間が終われば彼はまたセックス好きの男娼へと戻るのかもしれない。 だがもし最初に見せたあのセックスへの執着が本意なら、升麻はとっくに彼の餌食になっているだろうし研修の中でセックスの話が全く出ないのはおかしいような気がするのだ。 経験がないからそういうのはまだ早いと思われているのだろうか? そもそもどうしてセックスが好きなのか、男娼になったのか? 舛花を意識する毎に彼への疑問は募っていく。 だがそれを訊ねる勇気はなかった。 彼の機嫌を損ねて研修が続けられなくなるかもしれないという危惧もあったが、何より舛花に鬱陶しく思われたり嫌われたくないというのが一番の理由だった。 「ちょっと休憩するか」 酒の作法を学んでいた升麻は、舛花の言葉でようやく肩から力が抜けた。 「升麻力みすぎ。そんなんじゃ身が持たねぇぞ」 胡座をかきリラックスモードに入った舛花が指摘してくる。 「は…はい。でもやっぱり緊張してしまって…」 畳の上で小さくなりながら升麻はボソボソと呟いた。 「だからさ〜敬語も使わなくていいって言ってるだろ?同い年なんだし」 「や、でも教えてもらう立場ですし…」 升麻の言葉に舛花はため息をつくと寝転がった。 横向きになり片手で頭を支えると下からじっと見つめてくる。 その視線にドキッとしながら升麻も舛花を見下ろした。

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