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第25話

どんな体勢であっても決して崩れる事のない整った容姿。 はだけた着流しの胸元から覗く胸板の逞しさ。 一緒にいるだけなのに、舛花の存在というものが自分の中で大きくなっていくのがわかる。 あぁ、そうか。 その時升麻は理解した。 男娼はこうやって客の心を掴むのだ、と。 「相変わらず生真面目っつーか頭がかたいよな、升麻は。ってか接客はまぁ全然ダメだけど何か話し方とか仕草とか綺麗だよな。ここに来る前何やってたの?あ、もしかしてめちゃくちゃいいとこのお坊ちゃんだったりして?」 突然飛んできた鋭い指摘に升麻は思わず視線を泳がせた。 体が弱いことを知られているとはいえ、升麻が三崎インテリアの幽霊社長であることは知られてはならない。 舛花になら話していいかもしれない…と一瞬思った。 だがもし升麻の事情を知った舛花に幻滅されたら…と思うと咄嗟に怖気づいてしまった。 「それも言っちゃダメなやつなんだ?」 言葉を詰まらせる升麻に、舛花はそれ以上追求はせず、ふーん、と呟く。 「じゃあさ、キスしたことある?」 「え…っ」 「これも聞いちゃダメなやつ?」 また突拍子も無い質問をされて、升麻は再び言葉を詰まらせた。 なんでそんなことを聞くんだ… また揶揄うネタにでもするつもりだろうか。 チラリと舛花を見下ろすがその表情から揶揄っているようには見えない。 ここは娼館であって、彼は升麻の教育係。 そういう質問を投げかけられて恥ずかしがっている方がおかしいのかもしれない。 そう思った升麻は、蚊の鳴くような声で「ない」と答えた。 が、言った後で後悔と羞恥が押し寄せてくる。 この歳で経験どころかキスもまだなんて恥を晒しいるようなものだ。 嘘でもあると言えばよかった… 羞恥で熱くなった顔の熱をどうしようかと悩んでいると、突然目の前で空気が揺れた。 花のような甘い香りが鼻腔を擽ったかと思うと画面いっぱいに舛花の顔が広がる。 次に、温かく柔らかい感触を唇に感じた。 「な…んっ」 驚いた升麻は思わずその場所から離れようと退く。 だが、腰に回された手が升麻をグッと引き寄せてきた。 「シッ…黙って」 「……っ」 低い声で命じられ、意思とは無関係に従ってしまう。 大人しくなった升麻にご褒美を与えるかのように再び唇が軽く重なった。 「いい子…少し口、開いて」 恥ずかしい… どうしよう… 頭の中はおもちゃ箱をひっくり返したかのように大パニックを起こしている。 「升麻」 甘い声に促されて、升麻はおずおずと口を開いた。 開いた下唇と上唇を舛花の唇が交互に啄んでいく。 何度かそれを繰り返すと、今度はぬるりとした感触が口の中に侵入してきた。 ぴちゃ、という聴きなれない水音に肩が跳ねあがる。 厚みのある舛花の舌は、升麻の口内をゆっくりと舐めるように一周すると、突然升麻の舌に絡みついてきた。 「んっ…っ」 逃げる舌を捕まえるように口づけが更に深くなる。 引き寄せられた腰はいつのまにか舛花の身体にぴったりと密着しているため、逃げられない。 生まれてから一度もそんな事をされた経験がない升麻は、湧き上がる得体の知れない感覚にぶるぶると身を震わせるしかなかった。

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