5 / 10
第5話 奇妙な邂逅
あれから一週間が経った。
月飛に付けられた根性焼きは消えず、用足しの度に日向を惨めな気持ちにさせた。
だが悪いことばかりではない。今日は土曜日だが制服に着替え、月飛の車で高校まで向かう。なぜなら文化祭当日だからだ。
「帰りは何時くらいになるんだ?」
校門前に到着した月飛が不機嫌そうに聞く。
「片づけもあるから遅くなるよ。それからご飯行くだろうし……」
「遅いのか。残念。すぐに帰らないと、にいちゃん寂しくておかしくなってしまいそうだよ。先週も一日いなかっただろう? 今日もクソガキと一緒なのか?」
「違うよ。クラスのみんなとだよ」
「ふうん。羽目はずすようなことはするなよ」
「うん、わかってるって」
日向は月飛の視線から逃れるようにして助手席を降りた。
「おはよう! あれ? ヒナちゃん車なんだ。どうかしたの?」
愛らしい声に呼びかけられる。振り向かずともわかる。しかし日向は声の主を振り返れなかった。
「……呼んでるぜ、日向。可愛い子じゃないか。もしかして彼女か? にいちゃんにも紹介してくれよ」
ドアウインドーを下ろした月飛が人好きのする笑顔を振りまいて聞いた。
「ヒナちゃ……日向くんのお兄さんなんですね。初めまして、ミサキです。日向くんのクラスメイトです」
「よろしくねミサキちゃん。日向とはもう長いの?」
「そんな、そういう関係じゃないです。たまに映画を観たり、ご飯に行くくらいで……」
日向を差し置いて最悪の展開が繰り広げられていく。口を挟む余裕すらない。
「あ、もうこんな時間。それではお兄さん、日向くんお借りしますね」
「夕飯までには返してくれよ。大事な弟だからね」
エンジン音が遠ざかっていっても、日向はその場を動くことができない。
「……どうしたの、ヒナちゃん?」
一生家に帰りたくなくなった。
ともだちにシェアしよう!