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第58話

後ろに伊織がいてそっと手や足を安心させるように撫でてくれている 身体中の緊張が解れていく 何も言わずに向き直って尚も背中を撫でてくれる伊織の手を胸元に持ってきて自分の手を重ねた トクントクンと心臓が脈打つ 彼の顔を見て視線がかち合う 彼の双眸に映った自分は、酷く不安そうな今にも泣きそうな表情をしていた これまでこんなに露骨な敵意を向けられた経験が余りなかった この恐怖を不安をどんな形でもいいから消してほしかった 「………………いおりぃ」 「なお、不安や恐怖があるのなら言って。解消しようか」 「............」 言っていいんだろうか? 嫌われたりしない?呆れられたりしない? もし......もし、望まない答えが帰ってきたら? 恐れていた結果が待っていたら? そんなことが頭の中を占める 「言って?なお。大丈夫だから」 「......伊織は、女の人が好き?僕以外に誰か恋人がいるの?うっ......僕とは、いつまで?後、何人いるのっ......ひっく......もう、飽きた?」 悲しい寂しい怖い 口に出すと負の感情が頭や身体を蝕んでいく 「もう、僕とはいられない?......っ!」 唇に柔らかいものが触れる 「なおは、私を酷く誤解しているみたいだね。その質問全部順番に答えてあげる。覚悟して?」 いつも穏やかな伊織の目がキラリと光った

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