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雲仙蒼羽の章 第2話

 出会ったのは春で、夏が来る頃、千疾の様子がおかしくなった。 「千疾、どこか具合が悪いのか?」  青い顔をして元気がない。 「んー、俺季節の変わり目になんか体調悪くなるんだよ。ちょっと貧血気味になる感じだけだから大したことないよ。1週間もすれば治るし。特に今は夏だから夏バテかもね。」  毎回?なんか変な病気じゃないのか?彼は夏なのに冷や汗をかいていた。 「瑛太、遺伝子レベルまで解析できる人間ドック用意してくれ。あらゆる病気の可能性を潰してくれるところがいい。千疾の様子がおかしい。もしかしたら遺伝病の可能性がある。」 『マジか?健康そうなのにな。わかったできるだけ早く用意する。』 「…それともう一つ遺伝子鑑定を頼みたい。」 『……りょーかい。』  瑛太に渡した物は翔の遺髪だった。  それから間もなく人間ドックの用意ができてぐずる千疾を連れて人間ドックに放り込んだ。医者どもに千疾を晒すのは非常に不本意だが俺は医者じゃないから仕方がない。  医者を目指しておけばよかったんだろうか?でも女とΩを診ない医者って需要がないしな。 2日の入院で退院してきた千疾の第一声は”お腹空いた”だった。もちろん千疾の好きなものを食べに行った。  結果は2週間後に何故か瑛太が直接伝えに来た。珍しい。しかも盗聴防止のある、特別な部屋でというリクエストの上での報告だ。実家の特殊な部屋で報告を聞いた。  久しぶりに会う瑛太は眉の間に皺を寄せていて、いつになく難しい表情をしていた。 「…まさか、不治の病だったとか、言わないだろう?」  胸中にじわじわと不安が広がる。 「いや、その方が簡単だったと思っても怒るなよ?ほら、資料だ。ちゃんと口止めはして、データは抹消したから。」  俺は渡された資料を見て、手が震えた。 「結論から言うと、翔と千疾は双子だった。…三つ子だった可能性もある。産院の記録も戸籍も調べた。新生児の内に養子縁組がなされたようだ。翔のご両親はその産院で不妊治療をしていた。千疾のご両親はともにβだが、Ω因子があったようだ。双子の内はっきりとΩだと判明した翔を子供を欲しがっていた翔のご両親に養子に出した。なぜそうなったかはいろいろあったようだとしか調べられなかった。まあ、結局翔は一人っ子だったから、そういうことなんだろうな。一方千疾はごく一般的なβとして兄弟の存在を知らないで育った。翔は知っていたようだけどな。両親に似てないから疑問をもつのは当然だろうな。」  手元の資料を持つ手が震えた。 「千疾はβでもあるがΩでもある。未分化のΩ特有の生殖器官がはっきり存在した。体調不良は未分化だが多少の影響はあるようで、発情期のサイクルと一致する。だが、一般的な検査ではβとしか出ないから、こんな詳細な検査をしなければ多分普通にβで終わっていたな。βとしての男性生殖器は完全に機能しているようだしな。ようするに、両性具有者だ。」 『…蒼羽さん、…運命の番は…僕じゃないですよ。きっと…出会えます…だから、悲しまない…で…』  翔の最後の顔がフラッシュバックした。彼はこうなることがわかっていたのだろうか? 「医者が言うには二卵性でΩの一卵性の双子の片割れがβである千疾に吸収されたのではないかとみている。DNA検査で、翔と千疾は兄弟レベルの一致率だったが、千疾のΩとしての生殖器から取った細胞のDNAは翔と一致した。双子に稀にある、キメラって奴の可能性が高いらしい。だから三つ子説だな。翔がもともと一卵性双生児だったって可能性だな。翔の医療記録では真正のΩとしか出てこないからな。身長もΩの平均で性器もΩ特有のもので、ちゃんと発情期があったらしいしな。Ωはいろいろ問題が大きいから、βより定期健診の数は多いから助かったよ。」  俺は震える手を止めるように握り締め、瑛太に問うた。 「千疾はΩになる可能性はあるのか?」  瑛太は資料を指し示す。 「可能性はないとは言えない。だが彼はもう24歳で、性的成長期はもう終わっている。何らかの要因がなければ未成熟の生殖器が機能することは99%ないだろうと書かれている。初めて見る症例で、なにも断言はできないから、研究させろって言われたよ。研究しないことにはわからないってさ。」  ぐしゃりと資料を握りつぶした。 「なら、何も問題はないな。千疾は今まで通りβ。貧血は体質。それでいい。千疾を研究材料に差し出す気持ちは微塵もない。」  瑛太は飄々とした顔で頷いた。 「俺は嬉しいよ。本当に運命の番だ。俺と千疾は。トラウマにも感謝だ。俺はね、瑛太。初めて運命に感謝をしたよ。千疾を失ったら俺はこの世に未練がないくらいね。忙しくなるな。瑛太。」  灰色の世界が極彩色になった。このつまらない世の中も千疾がいれば輝いて見える。千疾を護らないといけない。くそったれなαとΩから。翔と親密になったことでΩに興味を持ったと知ったあいつらはまた俺にちょっかいを掛けてきている。 「勘違いした我が家の傍系のΩがいるようだし。父上もいい加減、わかってると思ってたけどね。瑛太。余計なことする奴らは皆潰すからね。」  肩を竦めて見せた瑛太は”イエッサ―”と敬礼を返してきた。 「ああ、わかってると思うけど、普通の検査結果は家に送ってきてね。」  数日後、送られてきた診断結果を見て千疾は安心したようだった。 「よかったー。蒼羽脅かすからさ。何か重大な病気なんじゃないかと思ったよ。貧血気味ってことは何か足りてないのかな。他は超健康だってさ。」  そんな千疾を腕の中に抱き込んでキスした。 「レバーとか食べるか?あれか?鉄分入った乳飲料とか?」  俺は貧血によさそうな食材をあげた。腕の中で千疾が楽しそうに笑う。 「焼き鳥のレバー食べたい。レバニラは苦手なんだよ。」  じゃれあいみたいなキスを繰り返して我慢できなくてベッドに連れ込んだ。  未分化ではあるけれど、Ωとしての生殖器官はあるのだ。それは俺の性器を受け止められる可能性がある。ちゃんと結ばれることは夢じゃない。  ゆっくりゆっくり、彼には慣れてもらおう。 「あん…ちょ、ちょっと蒼羽…そこばっかり弄りす…ひあ…」  後孔をローションだらけにしてかき回す。いつもいつも挿入するのは指だけど、千疾の中を味わいたくて指を何度も抽挿させる。熱くて気持ちいいそこはいつ俺を受け入れてくれるんだろうか。奥の前立腺を刺激すると俺の指を締め付けてきて、突っ込んだらとても気持ちいいんだろうと思わせる。  でも我慢だ。彼に痛い思いはして欲しくないから大切にする。  トラウマだった性体験を吹き飛ばしてくれただけでなく、セックスが気持ちいいんだと初めて思わせてくれた千疾は俺にはかけがいのない大切な人だと思ってる。こんなに色っぽい千疾は俺だけが知っていればいい。  千疾は俺の運命の番なのだから。 「も、イかせてっ…」  悲鳴混じりで強請る千疾の雄を扱きあげるとあっけなく達した。その精液すら俺には甘い。最近は千疾からいい匂いがする。その千疾の体臭を嗅ぐようにすると千疾は「汗臭い!??」と慌てるから可愛い。  俺は幸せだった。

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