10 / 13

運命の番の章 第4話

 蒼羽と出会って4年目。出会った日に籍を入れた。  あのあと、ご両親に会いに行き、俺の両親にも挨拶に来た。父さんも母さんも腰を抜かした。孫の顔見せられないのはごめんなさいと謝ったけど、俺の幸せが一番だからと許してくれた。お父さんは蒼羽と飲み明かして、納得したらしい。  お互いの両親の問題はクリアして、俺達は新婚旅行に来ている。式はあげないけれど、写真だけは撮って部屋に飾った後、休みを取って桜の名所に来ていた。俺達の薬指にはプラチナのシンプルな結婚指輪がはまっている。  大勢の観光客が桜で囲まれた道を歩いている。散り始めた満開の桜の下をスマホで写真を取りながら俺達も歩いた。頭や肩に花びらが落ちて、手でそっとそれを払う。 「綺麗だね。もっと散ってきたら花びらだらけになりそうだね。」  傍らの蒼羽を見上げて言う。 「そうだね。こんなに桜だらけなんて思ってもみなかったけど、来てよかったな。」  俺は嬉しくて頷く。二人恋人繋ぎで手を繋ぎながら、道を歩く。道の脇に土産物屋さんがあって、時々冷やかしながら桜が途切れる終点に来た。この先は寺に向かう門前町だ。  土産物屋や寺見学であっという間に一日が過ぎた。予約してあったホテルにチェックインしてソファーに座った。なんとスイートだった。 「なんか豪華すぎるよ、蒼羽。ウェルカムフルーツまであるなんてびっくりだよ。」  俺が言うとニコッと笑って蒼羽が俺の隣に来て座る。 「新婚旅行だからね。せめて海外に行こうって言ったのに嫌がるからせめてもの俺の我儘。新婚初夜は思い出に残したいじゃないか。」  新婚初夜。何か俺真っ赤になってると思う。 「今さら、初夜って…さんざんしてるじゃないか。もう。」  恥ずかしすぎて、そう言って誤魔化そうとしたら俺を抱きよせた蒼羽がチュッとキスを唇にした。 「でも、今夜は特別。澤野千疾が雲仙千疾になったんだから。なにもかも俺のものだね。当然俺も千疾のものだよ?」  最初、蒼羽は俺の家に婿に来る、と言った。俺と両親は慌てた。それは向こうの両親もだ。弟さんである優輝さんはそれもいいね~と笑っていたけれど。  財産目当てで近づいたとか、俺が周りに勘ぐられたくないのと、子供が産まれないため、俺の両親に対しての責任という配慮だったみたいで(元から俺は女性とは結婚するつもりがなかったのだけど考えてみれば親不幸だったかな)。  そこのところを散々両家族で話し合った結果、俺が雲仙家に籍を入れ、仕事場では旧姓で仕事をする、ということに収まった。だから今でも会社では”澤野さん”なのだが、執行部の一部にはどうも腫れものに扱うような雰囲気の重役もいて、少し困ったことになった。まあ、経営上の大株主の一族に連なったから仕方ないかもしれない。 「嬉しい。俺の蒼羽、大好き…」  抱きついて顔を見上げた。顔が近付いてきて、今度は深くキスをした。  広々とした浴室に広めの浴槽。ガラス張りのシャワールーム。高級なアメニティ。俺としては少しビビってしまう高級さなんだけど、一生に一度と考えればそんな贅沢も許されるのかと思う。  そんな浴室に二人、一緒に入る。お互いにシャワーを掛けてバスジェルで泡立てた浴槽のお湯に二人で入る。お互いに手で洗い合う。 「くすぐったい…」  俺はくすくすと笑って蒼羽の肌を撫でる。俺の肌を撫でまわす蒼羽の手は撫でられてくすぐったいというよりは別の感覚を湧き立てていく。俺の両の尖りを親指で捏ねまわす。それは洗ってる行為になるのだろうか?  いや、もうこの行為が前戯になっているのだ。お互いの熱を高め合う儀式。 「くすぐったいだけ?」  蒼羽が顔を近づけてキスを落とす。引き寄せられて俺は蒼羽に跨って座る。お互いの雄が触れ合ってピクリと震えた。 「…んッ…」  蒼羽の舌に俺の舌は絡め取られ、深く合わさって唾液を交換する。蒼羽とのキスは気持ちいい。いつまでもしていたい気がする。熱が上がっていくのがわかる。勃ち上がった俺の雄と蒼羽の雄が擦りあう。 「…ん、あ…」  ぞくぞくっと背筋を甘い痺れが走る。お湯のせいなのか、興奮のせいなのかわからないけれど、身体が熱い。 「蒼羽…早くベッドに、行きたい…」  焦れたのは俺の方。のぼせそうなのと、もっと気持ちよくしてもらいたくて強請る。  ベッドに姫抱きで連れて行ってもらって抱き合う。 俺はいつもより理性が飛んでしまって強請りまくった。もう、訳がわからなくなるほど、快感に酔ってしまって目の前がスパークする。  指で慣らされたそこは別の生き物のようにうねる。掻きまわされて前立腺を刺激されるとそれだけで軽く達してしまう。 指がいつの間にか出ていって、熱いものが当てられる。 「…あ…中、入ってくる…ッ…」  ゆっくりと分け入ってくる蒼羽を感じながら蒼羽にしがみつくようにして挿入の感覚をやり過ごす。息を吐いて力を抜くことは大分前に覚えた。でも質量は俺の中目いっぱいよりちょっと大きいくらいで圧迫感は凄い。  その挿入が止まったのに息を吐く。 「全部入った。見えるか?」  腰を抱えあげられて見た結合部は確かに全部飲みこんでた。 「嘘、入ってる?俺、苦しいけど…痛くない…」  思わず後孔に力が入った。締め付けてしまう。それで中の蒼羽の質量が増した気がした。 「凄く気持ちイイ…嬉しいよ、千疾。動いていいかい?」  返事をする前に揺さぶられた。奥を突き上げる感覚に何度も達してしまう。 「…あ…あッ…あ…蒼羽…蒼羽っ…凄い、熱い…なんだか、変になるッ…」  気持ちよさに気が狂いそうなくらい、蒼羽を求めた。繋がっている奥が熱い。蒼羽の精を全て注ぎ込んで欲しいと、俺は思った。蒼羽も同じ気持ちなのか一晩中俺達は貪りあった。受け止めきれない精液がシーツに盛大に染みを作ったけれど、それも気にならなかった。全部受け止められて嬉しい。蒼羽に応えられて嬉しい。蒼羽が愛しくてたまらなかった。  俺は耐えきれなくて途中で気を失ったけれど、朝起きた時、幸せそうな顔で眠る蒼羽を見て、胸が痛くなった。 「愛してる。蒼羽…」  俺はしばらく蒼羽の髪を梳くように何度も撫でていた。  その日は引きこもることを決めた。朝シャワーを浴びてさっぱりして、モーニングを頼んで朝食を取った後、ベッドの中に飛び込んだ。  せっかく旅行に来てこればっかりってあれだけど、新婚旅行なんだから仕方ないよね。 「千疾…」  蒼羽が、真剣な顔で見つめてきた。 「何?蒼羽。」  蒼羽は俺に覆いかぶさるようにして見ている。 「番の儀式を千疾としたい。」  俺は驚いたように目を見開く。それはαとΩにしかない行為。なのに。 「俺の運命の番は千疾だ。だから、形にしておきたい。」  蒼羽の本気を感じる。ここまで言われて、受け入れないことなんてできない。 「うん。いいよ。蒼羽。俺を蒼羽の番にして?」  蒼羽がほっとしたような、嬉しそうなそんな複雑な表情をした。蒼羽の顔が首筋に近づく。  噂には聞いていたαがΩを番にする行為だけど、Ωからαにすることはできない。αにだけできる儀式。  ちくりと、犬歯が首筋に突き立てられたのがわかった。 「…んッ…あ…」  何かが注ぎ込まれた気がした。身体が変わっていく感じがした。くらくらして一瞬意識が飛ぶ。 「蒼羽…」  両手で蒼羽を抱きしめた。 「愛してる千疾…」 「俺も愛してる…」  そして俺達は一日中愛しあった。観光の予定は半分しか消化せずに俺達は新婚旅行を終えた。  旅程の半分はベッドの中だった。帰りはへろへろだったのは言うまでもない。 「はい、まこと、お土産」  俺は買ってきたお土産をランチしに来てくれたまことに渡した。 「どうしたんだ?まこと。」  まことが会ってからずっと俺を見ている。唖然とした表情だ。 「ううん。いや―ずいぶん可愛がってもらったのかなーなんて。お肌つやつやだよ?」  ありがと、と土産をしまいつつまことが言う。 「つやつやって。もう28だよ。アラサ―間近でそんなわけないだろ。」  そういうと、まことは首を横に何度もふって、ドン、とテーブルをたたく。 「いや、絶対、美人になった。どういうこと?謎だ。」  俺は赤くなりつつ首を傾げる。 「うーん、なんか他の人にも言われたんだけど、別に化粧品使い始めたとかはないし。シャンプーなんかも変えてないしなあ。」  ランチのサラダを口に入れつつまことが言う。 「あれか、人妻の色気って奴か。」 「それを言ったらまことの方だろ?幸せそうでなにより。今日は時間作ってくれてありがとう。つか、俺人妻というより…あれ?適当な言葉が浮かばない。婿?」  まことはそんな俺にげらげら笑う。蒼羽の事を惚気られる友人がいてほんとよかった。 「あれ?首筋…傷?」  思わず、蒼羽の犬歯のあとが残るそこを抑える。 「うん。番の儀式とか言ってたかな。けじめとしてしておきたいって。俺βだから効果ないと思うけどね。」 「へえ…そうなんだ。愛されてるね。千疾。」 「うん。それは自慢できるよ。」  そう、今は他に番ができたって言われても別れてやらない気持ちになってる。  蒼羽の言う通り、俺と蒼羽が運命の番であればいいなとそう思い始めた。

ともだちにシェアしよう!