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第2話 愛し

 俺達は、やや裕福な一般中流家庭に生まれた。俺の方が数十秒先に生まれたから、俺は兄貴で、友生は弟になった。見た目は全然似ていないけど、双子だ。二卵性双生児、というやつだ。  父親は仕事が忙しく、転勤を繰り返していて単身赴任、常に家に居なかった。母親も仕事をしていたが、それとは関係ないところで家を留守にすることが多かった。いわゆる不倫を繰り返していたのだ。  物心ついた頃には、俺と友生の二人で過ごす時間が多くなっていた。保育園でも、友生は人見知りをする性格だったから、大体俺の後ろに隠れて、俺の仲のいい友達と一緒になって遊んでいた。今も仲のいい愛美とは、その頃からの付き合いで、俺達のことをよく知る人物だ。  小学校に入って、留守番ができる年ごろになると、母親は夜家に居ることが無くなった。俺達は、その頃になると母親が何をしているのか分かっていた。  俺と友生の二人だけの夜は、まだ幼い俺達には心細く恐ろしいものだった。だから、二段ベッドの上段で、二人一緒にくっ付き合って眠るのが普通になった。互いの小さな体を抱きしめ合いながら目を瞑ると、不安なんか何処かへ飛んでいって、すぐに眠ることができた。俺達は愛情を欲していたんだと思う。いつの間にかそれを互いに分け与えることで満たすことを覚えたんだ。  気付けばどちらともなく、ベッドに入るとキスをするようにもなっていた。それがどことなく良くないことのようには思っていた。でも、俺達はやめなかった。いや、寧ろその頃には互いを求め合うようになっていたと思う。無自覚なまま、俺達は恋に堕ちていた。  あれは、俺が小学五年の時だった。いつものように二人でベッドに入ってキスをしていた。友生はキスをすると興奮するのか、執拗に啄むように口付けを繰り返すようになっていて、俺が離して寝ようと言うまで止めなかった。だから、その日も友生は俺の唇を求めていた。ただ違ったのは、俺が友生を求めたこと。  濡れた柔らかな赤い唇と潤んだ瞳、上気した頬。彼の全てが愛おしくて堪らなかった。俺は抱え込むようにして抱き寄せ、いつからそうしていたのか、友生の脚を自分の脚で挟み込むようにして、股間を擦り付けていた。  その刺激のせいか、異様に興奮していた俺は友生が異変に気付いて身を離そうとしていることに気付かなかった。 「リョウちゃん……!」  友生が俺を押し返して困惑した表情で、じっと俺の股間を見ていた。俺もそれを見て驚いた。その時初めて、尿意以外で勃っているのを見たんだから。  友生も俺がトイレに行きたいわけじゃないことは分かっていたようだった。すると、何を思ったか友生は俺のパジャマのズボンとパンツを下ろしたのだ。  完全に勃起した俺のそれが露わになり、恥ずかしいのを通り越して頭が真っ白になる。友生はそれをじっと見詰めていた。 「……何か出てる」  友生の手が俺の未成熟な雄の先端に触れた。 「あっ……」  俺の声に驚いて手を引く。自分でも驚くほど変な声が出た。友生は手についた透明な液体を、どうしてか口に運んだ。 「……苦い。おしっこじゃないんだ」  その時、友生は小悪魔的な薄笑いを浮かべていたように思う。今まで一度も見せたことがない表情だった。 「擦ると気持ちいいの?」 「え……?」 「さっきずっと僕の脚に擦ってたから」  否定しようとするが、あまりにも事実で、何も言えず押し黙る。それを見ると、友生は再び竿に手を伸ばし、今度は茎全体を手で包み込むように触れた。 「……ッ!」 「気持ちいい?」  温かい友生の手に包まれて、触れた部分から火が出ているかのように熱くなり、全身に快感が走るのが分かった。俺は、頷いた。  面白がっていたと思う。友生はそれを掴んだまま手を上下に動かし、擦った。その度に俺は変な声が出てしまい、全身がびくびくと震えた。それを見て彼は嬉しそうに笑った。  どれくらいも時間が経たぬ間に、俺は友生の手の中、彼のパジャマにまで白濁の液体をぶちまけていた。俺はしばらく快感の余韻に身を委ねていたが、目の前のその白い液体を見て一体何が起こったのか分からず、混乱した。 「これ……精子かな」  友生の言葉を聞いて思い出した。保健の授業で習った気がする。でも、学校では実際にどんなものか教えてくれないから、半信半疑だった。 「……初めて、だよね?」 「うん……」 「これで、リョウちゃん大人だね」  大人になることが、どんな意味を持っているのか、その時の俺には分からなかったけれど、何となく大人になればこの小さな世界から解放されるような気がしていた。  精液をティッシュで拭いながら笑んでいた友生も、「早く僕も」と思っていたに違いない。  だから、その日から、俺達は互いを互いで慰めるようになった。友生は体が小さめだったから、一年後に精通した訳だけれど。初めて達した時の彼の顔は、今思い出しても体が熱くなるぐらいに綺麗だった。

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