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第3話 恋人

「ね、フェラチオって知ってる?」  中学一年の時だったと思う。ゲームに夢中になっていた俺は、知らないというのを沈黙で返した。 「してみていい?」 「あー……」  俺の頭の中はゲームの内容で一杯で、友生がやろうとしている「フェラチオ」という単語さえ、右から左に流れていった。 「うおぅッ!」  と、友生が近づいてきたのは分かったが、俺の脚の間に顔がきた瞬間にびっくりして変な声を出してしまった。 「じっとしてて、大丈夫だから」 「な、何するんだよ?」  友生は俺の問いには答えず、妖しい笑みを浮かべて、俺のズボンに手を掛けた。ボタンをはずしチャックを下ろすと、パンツの中に手を突っ込んで俺の雄を取り出したのだ。  その頃、友生に触られるのは慣れていたし、じゃれてそういう行為に走るのはよくあった。だから、身構えはするものの拒絶はしなかった。 「リョウちゃんのって、おっきいよね」 「ばっ……い、今更そんなこと言うなよッ!」  俺のそれを顔前にして、くすくすと笑った。恥ずかしくて顔を真っ赤にして顔を背けた瞬間だった。生暖かいものが、俺の中心を下から上に這い擦るような、びりびりと快感が走って、友生を見る。信じられなかった。友生は俺のそれを舌で舐めていたのだ。  止めろと言おうとするが、その行為があまりに気持ち良くて体は為すがままだった。彼は舌で俺の茎の先端から根元まで執拗に愛撫し、俺の反応を愉快そうに見ていた。  俺のそれが完全に勃ち上がったところで、友生は今度は口を開けると、俺の猛りを口に含んだ。 「あ……ッ!」  口の中の温かさと圧迫感が刺激して、俺の全身を快感に溺れさせた。  友生は何度も顔を上下させ、俺の屹立に刺激を与え続けた。手でされるのとはまた違う気持ち良さに、友生に警告する前に俺は簡単に達してしまい、彼の口の中に白濁を吐き出していた。 「ご、ごめん! 早く出して!」  友生の精液を口にしたことがあり、苦いことは知っていたので、俺は慌ててティッシュを差し出した。  でも、友生は吐き出さなかった。喉元がこくんと上下した後、舌舐めずりをしてみせる。あの量を全部飲んだんだと分かった。言いようのない昂りを感じた。 「気持ち良かったでしょ? いっぱい出たよ」 「だって、あんな……!」  あんなことをされれば誰だって気持ちいいに決まっている。そう、きっと友生だって。  俺はやり返してやる、と思った。思った時には目の前の友生を押し倒していた。予想の範囲外だったのだろう。さっきまで余裕を見せていたのに、顔に困惑と焦りの色が見える。  構わず友生のズボンとパンツを腰の辺りまで下ろすと、先端から蜜を垂らしたそれが露わになった。俺のを舐めながら興奮していたんだろうか。  勃ち上がった友生の茎の先端を舐めると苦い味が口に広がった。 「ん……!」  びくんと体を震わせるのを見て、嗜虐心みたいなものが湧いて、俺は先端部分だけを集中的に愛撫する。その度に友生は淫らな声を漏らした。 「リョウちゃんっ……そこばっかりやだぁ……!」  友生の方を見ると、涙で瞳を潤ませていた。ちょっと可哀想になったので、全体的に舐め始める。先端からは余計に苦い汁が溢れる。  俺が友生の茎を口に含もうとした時だった。友生が体を引かせて避ける。どうしてか分からず、彼の顔を見ると、真剣な面持ちでこちらを見ていた。 「……お願いがあるんだ」 「お願いって……何?」  友生は唐突に俺の手を取ると、指を舐め始めた。何の為なのか、俺の頭では理解できなかった。  すると、舐めていた指を離すと横になり両足を開いて見せた。彼の双丘の割れ目にある搾まりまでしっかり見えてしまう醜態を晒して。 「僕……リョウちゃんとセックスしたい」 「せ、セックスって……男同士でそんなの――」 「できるんだ。教えるから、……して」  友生は自分で秘部を開いて見せるのだ。その姿はあまりに淫らだった。 「濡らした指、ここに、入れてくれる?」  黙って頷き、指を彼の孔にゆっくりと挿入していく。 「あ、ん……う、動かしてっ……」  挿入した指を内壁を探るように動かす。その動きに従って時々身を捩って声を上げる場所があることを見つけた。 「だっ、だめ……や、あ」  興奮していた。いつも何処か澄ましたような顔をしている友生が、今は快楽に身を委ね、俺に艶めかしい姿態を晒している。その状況に、彼の凄艶な姿に、悦びを感じていた。 「ゆ、指を……増やして、拡げ、て……!」  涙を浮かべながらも、俺とセックスするために体を開いている。堪らない気持ちを抑えながら、中指を更に挿入する。狭く、ぎちぎちだが、何とか根元まで入れることができた。入れられた本人は痛いのか気持ちいいのか、大きく身を捩った。  彼の中を拡げるように、回すように内壁を擦ってみる。確かに段々と狭かった穴が余裕を持たせてきているようだ。 「ユウ、お前の中、もう一本入りそうなくらい拡がってるよ」 「……ぬ、抜いてっ……リョウちゃんの、を……!」 「俺の、って……?」  友生の中に入っていた指を引き抜く。もじもじして言わない彼の視線の先には、ズボンを下げたままだったために露わになった、完全に勃ち上がった俺の雄があった。 「お願い……僕、リョウちゃんとずっとこうしたかったんだ。……好きなんだ」  この時が初めてだった。友生が「好き」と、恋愛対象として言ったのは。そして自覚した。俺も、弟として好きだったわけじゃない、と。 「俺も……ユウが、好きだ」  俺の言葉に、友生はぽろぽろと涙を零した。初めて気持ちを確かめ合ったんだ。不安にさせていたんだと思う。  泣いている彼の額に、そっとキスをする。離れ目が合うと、頬を上気させながらはにかむように笑った。 「……じゃあ、入れるよ」  こくりと友生が頷く。  それを合図に俺は、友生の拡がった後孔に今にもはち切れそうなほど膨れ上がった猛りをあてがい、一気に貫いた。 「いッ、た……!」 「だ、大丈夫……?」  相当痛いのだろう。俺の腕を掴んでいる両手に、痛みに耐えようと力が込められている。 「だい、じょうぶ、だから……動い、て……」  その声に、痛みに顔を歪め涙を流す表情に、俺の中で滾る炎は全身を焦がすように制御出来ないものになってしまった。  何度も何度も華奢な彼の体を乱暴に突き上げ、燃えるように熱い茎を悦ばせるために欲望に身を任せた。 「あっ、……はぁ……っん」  友生がしがみ付くように俺の首に腕を回してきたので、俺の動きに合わせて耳の近くで淫らな喘ぎ声が聞こえる。そして既に狭い窄まりが俺を強く締め付け、悦楽の階段を上らせていく。 「一緒に、イこう」  痛みのせいか萎えかけていた友生の雄を擦りながら、何度も腰を突き上げる。甘い吐息が首筋に掛かる。 「イ、くよ……!」 「あっ、だ、だめッ……いっちゃ、あぁッ!」  俺は友生の中に熱い欲望を放った。と、同時に、俺の手の中で彼も果てた。  俺達はそのまま互いを抱きしめ合った。汗と精液で体はべたべたになっていたが、構わなかった。俺達は初めて一つになれたことの悦びを噛み締めていた。  ずっと、これを求めていたんだと思った。双子でありながら別々の卵子と精子で生まれた俺達が、初めて本当の意味で繋がったのだ。すぐに離れたくなかった。 「リョウちゃん、僕のこと……好き?」 「うん、大好きだよ」  友生は嬉しそうに笑った。

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