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第3話

 俺はこうして、初めてsexした男と付き合うようになった。 返事も無理矢理言わされたようなもので、不本意な気持ちがふつふつと沸いてくるが、付き合う付き合わないは俺の意思は尊重されないのだ。βである俺がαであるあの男に逆らえるはずがない。それは昨日よくわかった。一般庶民は強靭な敵に立ち向かえないようになっているのだ。無理ゲーだったと諦めて、相手が飽きるまで付き合っていくことにする。 まあsexは気持ちよくて、飛翔のことを考える暇もないぐらいドロドロにされるし、気持ちを切り替えるよい機会だと思うことにしよう。 (あー……、穴が気持ち悪い……。) 昨日sexし過ぎでまだ穴に違和感と軽度の痛みがあり、大学の硬い椅子は座り心地が悪い。お尻をちょっとずつ動かして、いいポジションを探していると、同じ授業を取っていた飛翔が現れた。 「よっ、雪雄おはよー。」 「おう、おはよ。」  挨拶した後、俺の隣席に座る。今日もカッコいいなと思い、ざっと全身を見ると、なんだか違和感を感じた。 「…なんかいつもと違う?」 「え、わかる?すぐ気づくなんて流石 雪雄だな!」  溢れんばかりの笑顔が返ってきて、内心しまったなと思う。 「実はさ、この服春香のチョイスなんだ。」  ああ。数秒前の俺の馬鹿野郎。 「………へぇ。似合ってるじゃん。」  春香は飛翔の番の名前だ。飛翔の服装はいつも飾り気の少ないノームコアなファションだったのに、今は黒をベースにしたカジュアル系になっている。紹介されて、昨日の今日でこれか……。春香さんあんなにおっとりした顔で、どれだけ自分が番だってアピールしたいんだ。そしてそれを幸せオーラ全開で自慢している飛翔……。いや、わかっている。俺の今感じている気持ちは妬みだとわかってはいるが、それでイライラがなくなるわけではない。顔に出さないように、小馬鹿にした感じで返す。 「……はっ、服装変えるとか春香さんにべた惚れだな。」 「当たり前だよ。だって魂同士が惹かれ合うんだ。俺の半身といっても間違いない。もう春香のいない生活なんて考えられないし、望んでくれた事はなるべく叶えてあげたいんだ。」 「……そうか。」  嫌味が通じず肩を落とした。目をキラキラと輝かせている飛翔が、続けざまに春香さんの惚気を話し始めたので、これ以上傷つきたくない俺は、話半分聞き流す。 「ちょっとした事で怒るんだけど、怒った顔も可愛くてさ……。」 「へー……」 「あっ、あと昨日さー、肉じゃが作ってくれたけど、びっくりするぐらい不味くて…。えづきながら全部食べきったんだよ。」 「ふーん。」 運命の番ってそんなに凄いんだな。恋は盲目ってよく聞くけど、そんなの比じゃないみたいだ。きっと春香さんが俺みたいに平凡でも、家事下手くそでも、嫌な性格をしてても、こうやって心の底から愛せて、一生大事にするって言うんだろうな。 でもそれって好きって言えるのか?ただ訳もわからず惹かれ合うって磁石と同じじゃないか。それなら、ちゃんと恋愛して、好き同士になった方が運命の番より凄いんじゃないか? ……って、こんな事部外者の俺が考えても、本人達は最高に幸せで、周りに見向きもしないで一生を添い遂げるんだ。……いいな。羨ましい。友情じゃない、愛情のある目で見つめられて、抱きしめられて、キスをされるんだ。 番の春香さんと出会って数週間。俺とは丸3年以上の付き合い。飛翔にとって時間は全く関係ないのだ。運命の番が相手では、ただのβである俺には土俵にも立てない。……虚しい。 「…あれ?」 飛翔は機関銃のように惚気まくっていた口を閉じて、俺をジッと見つめてきた。それだけで胸が跳ねる。 「……な、何?」 「なんか……、雪雄もいつもと違うな?……香りが違う?」 「え、…まじ?臭い?」 「いや、臭くないよ。俺の好きな匂い。」 「……っ。」  そう言うと鼻を鳴らして俺に近づいてきた。首筋に顔を埋める程の近さになり、少し引き寄せてしまえば抱きついてしまえそうな距離に心臓がうるさくなる。 「いつもの匂いよりこっちが好きだわ。もしかして雪雄も好きな人出来たの?」 「…………できてない。」 「そうなの?香水つけて色気づいたかと思った。出来たら一番に教えろよー!」 「…………あー、はいはいっ。」 「イテテっ!何でど突くんだよっ。」  近づいてくれたかと思うと、友達だと突き放され、飛翔と一緒にいるといつも心は忙しない。でも、あんな近距離で匂いが好きだと言ってくれたのは初めてで、それだけで沈んでいた気持ちは浮上してしまう。飛翔の好きな匂いは多分あの男の匂いだろう。結局朝まで一緒にいて、風呂も入って帰った。この僥倖があの男のお陰だと思うと納得出来ないが、飛翔が好きな匂いだと言ってくれるなら、あの男と付き合うのも悪くないかもしれないと思った。  その日の夜。また男の部屋にお邪魔することになった。昨日の今日で会わなくてもいいと思ったが、昨日交換した連絡先から、返事もしてないのに何度もメッセージが連投され、それをスルーしていたら電話の不在着信が気持ち悪いぐらいズラリと画面に並んで俺が折れた。無視してたら後が怖い。家に入るや否やまたベッドに直行する。 (発情期の猿かよ…)  身体を弄られ、快感を引き出されていく。性急であるが、昨日よりも俺を労わるように手つきは優しく、その違いに驚いた。恋人になったからだろうか。 丁寧な前戯の後、割り入るように挿入され、中で長い射精をされている時、男は動かずに俺の髪を撫でていた。頭を撫でられるのは悪くなくて、そのまま好き放題させていたが、快感の波が去ってしまうと昼間の幸せそうな飛翔の顔と春香さんの事をを思い出してしまい、好きでもない男に抱かれている自分が虚しくなる。 「俺がΩになれたら……。」  Ωだったら、運命の番と出会う前に飛翔に告白して、番にしてもらえたかもしれない。運命の番には敵わなくても、愛を囁きながら身体を繋げたり、近くにいることもできたかもしれない。わかってる。何度も、何度もこんな妄想をしていても無駄なのだ。叶うはずがない。でも止められない。やめることが出来ない。自分で自分を苦しめてる。 「うぅ……っ」 この男には最初から泣いているのを見られていたので、心おもむくままに、遠慮なく涙を流してシーツを濡らした。男は溢れてくる涙を吸い取るようにキスをしてきて、キラキラと光る緑の瞳で俺を見つめてくる。 「Ωになりたいの?」 「………。」 「Ωになって暁君の番にしてもらうの?運命の番がいるのに?」 「……っ、るせぇ。ただの独り言だ。」  無遠慮に傷口を抉ってくるこの男にも、いつか運命の番が現れたりするのだろうか。α様はいいよな。魂が選んでくれるんだから。こんな気持ちになる事もないんだろう。 「なったらいいと思うよ。」 「は?」 「Ωになったら抱き潰して孕ませてあげる。」 「………。」 「なーんてね。」  能面ではない、仄暗い笑顔で言われると嫌悪感からかぞわぞわ鳥肌が立ってきた。この男の言い方も気持ち悪い。お前に抱いて欲しくてΩになりたい訳じゃないと毒吐くと、射精が終わってもないのにまた腰を動かし始めた。今日も2回するのか。勘弁してほしい。でも再び快感が迫ってくると、何も考えきれなくなってくる。 「はっ、あっあっ……、んんぅ……っ」 ああ。俺って気持ちいいのに弱いのか。さっきの嫌悪感もなくなって、身体が刺激を求めていく。流されるままに、sexして、射精して、キスをする。  まぁいいか。この男と一緒にいる時は、飛翔といる時の忙しない感情はなりを潜めてくれる。嬉しい気持ちも悲しい気持ちも忘れ、快感だけしか残らないのだから。   ✳︎ ✳︎ ✳︎ 「ねえ、雪雄。そういえば何で名前で呼んでくれないの?『おい』とか『お前』とかばっかり。俺は沢山名前読んでるのに。名前を呼ばないのは相手の事が嫌いだから呼ばないらしいよ?付き合ってるのに、好き同士なのに、名前呼ばないのはおかしくないかな?」  付き合い初めて数日後。唐突に男は不満をぶつけてきた。名前……。そういえば会った時に言ってたな。すぐに忘れてしまって、ここ数日聞こうかとも思ったが、sexするだけだし、別にいいかと聞かなかった。嫌いの気持ちも少なからずあるが、それを言うと責め立てられそうなので、名前を呼ばないんじゃない、呼べないんだと伝えることにする。 「名前忘れた。」 「え……。嘘でしょ?本気で言ってる?」 「ああ。」 「いやいや……、ベンチで会った時に教えたじゃん。」 「…………。」 「………え、本当なの?」 「…….もう会わないと思って、覚えなかったんだよ。」 「あーあ。……はぁ。傷ついた。お仕置きね。」 「えっ…、んっ、んん〜っ!」  不満をぶつけるように、sexが始まった。まあ、名前を忘れるなんて恋人にされたら嫌だよな。逆の立場なら泣くと思う。今回は俺が悪いので素直にお仕置きを受け入れることにする。こっぴどくされると思ったが、首、胸、脇腹、臍……とキスが降ってきて、舐めたり噛んだりとじわじわと快感を引き出す愛撫は優しく拍子向けした。蕾もぐずぐずに解されて、大きく膨らんだ杭を打ち込まれ、押し上げるように入ってくる感覚が気持ちいい。 迫り来る快感を受け止めて、イキそうになると、俺のペニスの根元を指の輪っかでせき止められた。「まだだよ。」が何度も続き、俺は我慢が効かなくなり、射精を懇願する。 「ああ〜っ!イきたいイきたいぃ!手、手離して!」 「ほら…、名前呼ばないとイケないよ?」  正常位で遊馬のペニスが内壁のしこりの部分をピンポイントで突いてきて、何度もイキそうになっているのに、イクことができない。 「雪雄、名前だよ。ほら。」 「あ、あっ、ゆ、ずる!弓弦っ!」 「ん?なあに?」 「え…、よ、呼んだ!名前っ!あっあっ」 「名前呼んで俺にどうして欲しいかちゃんと言って?」 「ん……んあああっ!は、は、はっ」 「ほら、言わないといつまでもずっとこのままだよ?」 「あうっ、あっ、ゆ、ずるぅ!い、イかせてぇ!」 「イくのは雪雄でしょ?ちゃんと俺にして欲しい事言わないと。そうだな……、例えば『弓弦のちんぽで中ぐちょぐちょしながら、俺のちんぽも触って』とか。」  イきたいイきたいイきたい! 「ゆ、弓弦のっ、ち、んんっ、ぽで…っ、ぐちょぐちょし、ながらああっ!お、れのっ、ちんぽぉ、触って…ぇっ」 「雪雄よく出来ました。ほらご褒美。」 「あ、あああっ!くるくるくるっ…!」 「名前呼んで。」  激しい腰の動きと陰茎に触れる追い込むような手の動きに、弓弦の事で頭いっぱいになる。 「ゆず、るっう、弓弦…っ!弓弦ぅ!あ、ふ、んっ、んああっ!」 「…っうん。雪雄、好きだよ……っ」  sex中数えきれないぐらい名前を呼ぶ事を強要され、ひたすら快感と共に頭に記憶として弓弦のことを残された。

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