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第4話
付き合う事に対して一つ懸念していたのは、平凡代表であるβの俺が頂点であるαと関係を持ったことを周りに知れ渡ってしまうことだった。相手は大学では有名人。付き合っている事が知れ渡ったら、多分俺の身は無事では済まない。暴言、暴力、リンチ、レイプ……想像するだけでヤバい未来が待っているのがわかる。弓弦に逆らえない俺は、黙っておくことを承諾して貰わないと困るので、もし渋った場合は自分の身体で誑 し込む気満々だったが、そんな心配は杞憂に終わった。
「付き合ってるの黙ってて欲しい?いいよ。俺もそのつもりだったから。」
「え……?いいの?」
「うん。」
なんだ。好きだとか、運命の番だとか、その気にさせる言葉ばっかり言ってたので、言いふらすつもりだと思っていたけど、全くそんなことはなかった。所詮は戯言だったんだと確信できて安心する。これなら飽きられるのも早いだろう。俺の大学生活は近々安泰だ。
「何?雪雄は言いたかったの?」
「え、全然。これっぽっちも言いたくない。」
「なんだ、俺と一緒じゃん。やっぱり大切な人は隠しておかないとね。」
「へー……。」
「本当は監禁したいんだけど、それすると両親健在の雪雄は捜索願い出されちゃうし、俺も逮捕されちゃうから。でも大学での行動は知っておきたいんだよな……、あ。友達として近くにいてくれる?」
「……………怖。」
俺は付き合ってるのを黙ってくれたらいいと言う話をしてたよな?監禁?捜索願い?何を言いだしてるんだこいつは。飛躍しすぎだろう。怖すぎて鳥肌立ってきた。俺、将来の心配より今の心配をした方がいいんじゃないだろうか。弓弦が一番危険なのでは?………なんて思案しても結論は『逃げれない』で終了だ。
とりあえず表向きは友人として一緒にいるだけなので、結果オーライと思っていたが、周りの態度は激変して俺は振り回されることになる。
「なあ!平凡なあんたが極上のαとどうやって友達になったんだ?」
「俺(私)にも紹介して!」
「雪雄君と仲良くしたいんだ。一緒に出かけたりしたいから、連絡先交換しようよ。ほら、携帯貸して。」
「俺、αなんだけど弓弦君のお友達なんでしょ?仲良くしよーぜ!」
「遊馬君のノート見せてよ。あ、ついでに何でもいいから私物取ってきてさ、私に頂戴。」
他にも色々言われたが、ありすぎて覚えてない。友達というポジションになってみて、弓弦が大人気なのはよくわかった。怖いぐらいに。そして弓弦の周りにいるのはαばかりで、βは遠巻き、Ωは適時アピールという暗黙のルールがあったらしいが、俺が知らずに破ってしまった事になっていたのだ。
この時ばかりは自分の興味がない事に無頓着な性格を後悔した。知っていたら、弓弦との関係は全部隠してもらうように提案したのに。後悔先に立たず。既に校内中に友人として認知されている。
そして「こんな平凡すら友達になれるなら、俺(私)だってなれるでしょ?」という新たな期待で、甘い食べ物に集まる蟻のように弓弦と俺の周りには人が群がってきて大変な毎日だ。
「なあ……友達辞めたい。もう絶交しようぜ。」
「何言ってるの?俺たちは恋人だよ。絶交もなにも、友達じゃないよ。」
「……そういう事じゃなくて……。ああ…、だからさ、友達のフリやめよう。もうフリで仲良くしなくていいんじゃないか?」
「え?いいの?」
「……え?何が?」
「友達のフリ辞めるって事は大学辞めて、俺の家にずっと居てくれるって事だよね?自発的にいてくれるなら、監禁にならないし……。嬉しい。全然いいよ。」
「いやいやいやいや、ちょっと待て。」
もうなんなんだ!弓弦の頭の中はどうなっている。思考回路が異常じゃないか。俺がおかしいのか?いや、弓弦と話す時だけだ、こんな怖い会話になるのは。弓弦にお近づきになりたい奴らにも似たような事言うのもいたが、こんな怖くない。あ……、もしかして周りに変な事言う奴らばっかりで、思考が歪んだのか?類は共を呼ぶってやつ?それはそれで可愛そうだけど……、凡人の俺には理解不能すぎてつらい。
「待って?準備もあるだろうし、今から買い出しとか一緒に行こうか。俺も鎖とか買いたいし。」
部屋に鎖で繋がれている自分が簡単に想像出来てしまい、俺は直ぐに返事をした。
「やっぱなしで。友人のフリ継続しよう。」
「えっ、何で?俺、いいよ。」
「お願いします。友達のフリしてください。」
信じられないという顔で俺を見てきたが、俺はそんなお前が信じられない。
結局フリを続けることになったが、平凡の中の平凡で生きてきた俺は、毎日注目を浴びるだけで気疲れしてしまった。俺じゃ返答出来ない内容の方が多くて、結局質問には弓弦が答えるか、弓弦に聞いてくれと丸投げするようになった。意外な事に、それには怒らずに、弓弦は多くを魅了する笑顔で俺の代わりに対応してくれる。意外に良いところもあるんだなと、この時初めて見直した。
任せきりにして約1週間が経ち、家にいる時に、弓弦は疲れを顔に出すようになった。現状は弓弦のせいであるので、自業自得だと思う一方、任せっきりで良心が痛む。
「……なあ、」
「ん?どうしたの雪雄。」
「……あのさ、弓弦に面倒くさくて全部丸投げしてるけどいいの?」
「いいよ。こうやって毎日会って、sexしてくれるだけで嬉しいから。」
「………。でもさ、付き合うのも辞めて、友人も辞めたらさ全部丸く収まると思うんだよ。弓弦も毎日大変だろ?」
「え?何?何て言ったの?」
「だから、付き合うのも辞めて、友人も辞めたら……」
「何?よく聞こえないな。ちゃんと、はっきりと言ってよ。」
絶対聞こえてる。さっきまで普通に聞こえてたじゃないか。能面みたいな笑顔で言葉を遮って、圧力がすごい。
「………いや、弓弦がいいなら、いいんじゃね…。」
「そうだよ。俺が側にいたいだけ。雪雄がこうやって付き合ってくれてるだけでも奇跡なんだよ。」
その奇跡はお前が無理矢理起こした奇跡だけどな。
「まあ……、弓弦が対応してくれるならいいわ……。」
「うん。雪雄の為なら喜んで。」
「そうか……、さんきゅ。」
適当に流しながらお礼を言ったら、急に背後から衝撃がきて、身体をがっちりと抱きしめられ、首筋を甘噛みされる。何だ。どうしたんだ。
「……雪雄。雪雄っ!」
「………どうしたの。」
「……ああ。だって、俺にありがとうだなんて…。初めてだ。嬉しい。嬉しい……!」
「へ……?っ、ちょっ!待て待て待て!」
抵抗虚しくズボンを剥ぎ取られ、ペニスを直に触れられる。また今日もsexするのか。ああ、弓弦は何であんな軽い言葉をどうしてこんなに重く捉えられるのだろう。感謝の言葉なんて誰にでも貰ってるだろうに。重い。愛が重たい。早く俺に飽きてくれないだろうか。
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