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第5話

「こっちは時間を割いてやってるのに、αならすぐ出来て当然だと思って何でも頼ってきやがって。そんな事も考えられないから低脳なんだよ、あの糞教師。」 「へえー。」 「『君ならすぐ終わるよね?』だから?お前も時間かければ終わるだろ。ただの雑用押し付けて、褒めればいいだけとか思ってるわけ?お前の給料から金だせよ。時間は有限なんだよ。」 「そだな。」  最近2人っきりの時、弓弦は八方美人の仮面をとる。何故そうなったのかと言うと、初めて愚痴られた時、弓弦には鼻からいい印象なんて1mmも持っていなかった俺は、愚痴を聞いてもやっぱりなと納得するだけで話半分で聞き流した。するとそれを何故か目をキラキラさせて喜んで、毎日毎日俺に愚痴を言うようになってしまったのだ。 俺が一番言いふらされたくない、飛翔を好きな事を知っている強みからか、弓弦は遠慮なく他人を罵倒して愚痴って、蔑む。外面はイケメンの好青年なのに、実際はドブみたいにドロドロだ。最初に感じた嫌な感じは、勘違いではなかったって事である。  負の感情は聞いていて気持ちのいいものではないので、ずっと間の抜けた返事ばかりしていたが不満はないようだった。それよりも鬱憤を吐き出した後にsexすると堪らなく気持ちいいらしく、相変わらず濃厚で甘い行為をしてくる。 そうやって愚痴を聞き流していたが、時々聞くに耐えないときがあるので、俺は一つ提案してみることにした。 「なあ。ニコニコして疲れるなら猫被るの辞めて、素出せばいいじゃん。」 弓弦は誰にでもいい顔するから、頼み事も多いし、期待も沢山されてる。そして他人からの好意、嫉妬、羨望、憎悪を受け止めて、笑顔で返しているから、こんなに鬱憤が溜まるんだ。 「あはは。そしたら父さんが俺を殺しにくるよ。」 「…………は?何言ってんだ。そんなわけないじゃん。」 「あはは。そうだよね。直接は来ないよね。」 「え……?冗談だよな……?」 「え?……ああ、うん。冗談だよ。」 弓弦を見て俺は固まった。笑って冗談だって言っているのに、間の取り方から冗談じゃないんだろうなって何となくわかってしまう。 その後は話題がそれて、詳しく聞けなかったけれど、俺はどうしても気になってしまい、弓弦に取り入ろうとしている数人から、父親の情報を聴くことにした。俺と仲良くなれれば弓弦と近づけるとあって、みんな嬉々として教えてくれる。 弓弦の父親は大企業ではないが、名前は聞いたことのある会社の社長だとわかった。写真で見たり、ネットの口コミを見たりすると、ワンマン社長のようで、会社の口コミも賛否が分かれていた。実際にあった事はないが、厳しい人なんだろうなと想像できる。仮面被って愛想振舞っているのは、弓弦は弓弦なりに考えて、今のようになったのかもしれない。 そして何だかんだで俺との友人騒動から1ヶ月が経った。しかしまだ騒がしさは続いており、弓弦は愚痴の量が増えていく。 「友人として一緒にいて楽しい?俺の側にいたら甘い蜜を吸えるからだろ。裏で俺のこと馬鹿にしてんの知ってるからな。顔も性格も腐ってたら、腐敗臭で誰もお前の周りに寄ってこねぇよ。寄ってきてもハイエナぐらいだろ。αのくせに俺に媚を売るなよな。気持ち悪い。」 「大変だな……。」 「『松元君と友達なら私とも友達になってよ』だってさ。何でお前と雪雄が同列になるんだ。人間とゴミが同列か?」 「…………同じ人間でしょ…。」 「ゴミが何か欲しいって言ってたし、明日粗大ゴミのシールあげるか。泣いて喜ぶんじゃないかな。」 「それはやめろ。」  こうやって周りが騒いで、現状が辛いのはぶっちゃけ弓弦の自己責任だ。だって家でsexするだけなら黙っててよかったのだ。表向き友人になりたいなんて願望のせいで今こんなにキツくなってる。ざまあみろと思う一方で、弓弦に任せっきりにしている俺は、自業自得だと思っても良心は痛んでしまう。毎日呼び出され、毎日顔を合わせれば、今日はまだ平気そうだとか、今日はキツそうだとか気づいてしまい、無下にする事が出来ないでいる。 「最近、雪雄が優しい。」 「……そうか?」 「うん。だって会った時は俺の事全く興味なかったのに、今は俺の話もしっかり聞いてくれてる。」 「しっかりって言う程聞いてねぇけど……。」  無下に出来なくなったと言っても、愚痴中はゲームしながらとか、勉強しながら聞いて、目も合わせない事があるので、聞く態度としては良くない方だと思う。 「だって俺を心配してくれてるよ。」 「そりゃあ……、毎日毎日溜め込んでるもん言い続けられれば、弓弦じゃなくても心配するし……。」 「雪雄!」 「げっ」  締めつけるように抱きしめてきた。弓弦が特別ではないと言ったのに、都合の良い耳には自分だけって変換されているんだろう。そしてそんな弓弦の反応に俺は少しずつ慣れてきている。人間は慣れるんだなと身をもって実感中だ。 この男、遊馬弓弦は才色兼備の八方美人で、都合の良い耳を持つ、根が腐っている性欲魔だと俺はラベリングして、未だにしょうがなく付き合っている。でもこんなクソみたいな性格になったのも、厳しい父親だとか、何か原因があったんじゃないかって少し憐れんでもいる。 弓弦に対する俺の冷たい対応は、普通なら折れるだろうし、もう関わりたくないって思うだろう。何故こんなにも俺に飽きないのか、未だにわからない。弓弦は俺に何を求めているんだろう。俺を解放する日はくるのだろうか。 「あああっ!イく……っ!もうイくぅ!」 「………俺もっ!」 「んあああっ!ああっ…!んんっ、ふ……ぅ、は、あ……」 「……ああ、気持ちいいよ…。イく時、ぎゅっぎゅって俺のペニス抱きしめてくれるから、すっごく、雪雄の愛を感じる。」 射精すると蕾を無意識に収縮させてしまうので、弓弦はこじつけた俺の愛を受け取っていた。腹の奥でじわじわと生暖かい液が出されているのを感じながら、倦怠感と眠気がドッと襲ってくる。 「……疲れた。寝る。」 「眠たくなった?じゃあ全部出し終わったら、綺麗に身体拭いておくね。」 「ん……、よろしく。」  毎日sexをしているが、毎回毎回濃厚すぎて、俺はsexが終わった後は気を失うか、疲れ果てて泥のように眠ってしまうのが常だ。この日も後処理は全部任せて、顔中にキスされるのを感じながら瞼を閉じると、気持ちいいぐらいスッと眠りについた。 「………ん。」  ふと尿意がきて目が覚める。いつもなら朝方まで目覚めないが、今日はsex中に喉が渇いて水をがぶ飲みしすぎた。隣を見るといつもいる弓弦がおらず、ベッドは自分が寝ていたところ以外は冷たくなっている。携帯で確認すると午前1時。まだ夜更かししてるのかと寝ぼけ眼で思いながら、玄関近くにあるトイレに向かう。トイレに行くにはリビングを通り、廊下にでなければならないので、怠い身体を動かしながら寝室のドアを開けると、椅子に座ってる弓弦がいた。 「………え。」 「あ、雪雄。珍しいね、どうしたの?」 「ああ……、小便。」 「おしっこ?腰きつくない?抱っこして連れて行こうか?」 「いや、いい。」 「そう?気をつけてね。」  そう言って俺から目線を外して、机の上に広げられているノートと教科書に目線を落とした。まさかこんな時間まで勉強しているなんてにわかに信じられず、俺はトイレで用を足した後、弓弦のところへ向かう。 「……勉強してんの?」 「そうだよ。もうすぐテストあるからね。」 「へえ……。」 (……αも勉強するんだな。)  極上のαだから、学力も運動もできて当たり前だと思っていた。でもそれは俺の勘違いだったようだ。見えるノートには板書以外にもメモがあったり、教科書にも書き込みがある。ちゃんと授業を受けて、聴いているノートだった。俺といる時は、俺の勉強を見てもらうことはあったけど、弓弦自身の勉強をしているところはわからなかった。だから、何もしなくても出来るって羨ましいと思っていたのに、俺が眠ってからこうやって毎日努力してたんだろうか。 「……弓弦。何か飲む?」 「飲み物?いいよ。もうすぐ寝るから。」 「そっか。」  俺は水道水をコップに入れて飲み終えて一言声をかけていく。 「無理すんなよ。」 「……うん。すぐに抱きしめにいくね。」 「……はいはい。」  それから15分後に来て、宣言通り抱きしめてすぐに眠りについた。俺は暗闇に慣れた目で、月明かりを頼りに弓弦を見つめる。  眠った顔は初めて見た。整った顔は寝顔も美しく、フランス人形のようだ。 (弓弦は、顔良くて、みんなに愛想振りまいて、影で努力して……。これだけならただのいい奴みたいだな。)  俺には無理くり付き合うことを強要して、sexして、愚痴言って、ネジの飛んだ発言したりするけれど。よく俺に「雪雄しかこんな事言えないからね。」って言ったのを思い出すと、今まで感じなかった感情が芽生えてくる。 こいつが辛いと知っているのは俺だけか……。 (まあ、愚痴を聞いて、sexするぐらいで弓弦が楽になるならいいよな……。俺も気持ちいいし。)  じっと見ていたら無性に撫でたくなって、サラサラとした金髪を気の済むまで手の平で撫でた。そして俺も抱きしめ返すように、弓弦の胸に頭を寄せ、再度眠りについた。

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