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第8-2話

「雪雄。父さんの会社内定貰ったよ。」 「え、まじ?………おめでとうって言っていい?」 俺の内定通知から約1ヶ月後。弓弦は親父さんの会社への内定が決まったらしい。物騒な印象があるので内定が決まったと喜んでいいものか悩んでしまう。 「はは、いいよ。」 「そっか。おめでとう。」 「ありがとう。」 厳しそうな親父さんのところで働くのは大変だろう。弓弦はあれだけ友人や教師の愚痴を言うのに、親父さんの事は話さないので、尊敬してたり、畏怖を感じたりしているのだろうか。 「あ。お祝いでもするか?休みの日に飯でも食べに行くか。3000円までなら俺が奢ってやるよ。」 「祝ってくれるの?」 「俺も弓弦に祝ってもらったからな。当たり前だ。」 「雪雄……っ!」 「ぐうっ」 嬉しそうに思いっきり抱き締められたので軽く抱き返す。俺が内定貰ったときに、両親だけではなく弓弦とも飯に行ったのだ。馬鹿高い店に行こうとするので却下し、焼肉の食べ放題を奢って貰った。2人で外食するのは初めてだったので、新鮮ですごく楽しかった。弓弦も祝っていいなら祝ってあげたいし、また一緒に楽しく食べたかった。 俺の時は焼肉を食べたので、回転寿司に行くことにする。あの高級店に比べれば劣ってしまうけれど、俺には身の丈に合って安心する。 店内は人で溢れており、心地よい賑やかさだ。俺と弓弦はテーブル席に座った。 「弓弦美味い?」 「うん。雪雄と食べると何でも美味しいよ。」 「はいはい。」 俺はタッチパネルで寿司やらサイドメニューやらを注文していく。弓弦も自分で注文したり、レーンの寿司を口に運んでいる。 「弓弦は寿司で何が好きなの?」 「好きなの?俺はウニかな。」 「え、マジかよ。俺ウニとイクラ苦手だわ。海臭(うみしゅう)がすごくて食べれねー。」 「ははっ、海臭?初めて聞いた。磯臭いって事?」 「あ、あれ磯臭いって言うの?魚とかも時々不味いのあるじゃん。俺、あの独特な匂い苦手なんだよね。」 「そうなんだ?確かに安いのには多いけど、俺はあんまり気にならないな。」 「へえー。舌肥えてんのかと思うけど、弓弦何でも食うよな。」 「雪雄は結構好き嫌い多いよね。」 「うるせー。」 テーブルの下の長い脚を軽く何度か蹴ると、弓弦が楽しそうに笑う。俺は辛い物、貝類、臭いの強い物、グニュグニュした感触の食べ物は苦手だ。 「しかし、こうやって話しても俺たち共通点ないよな。」 バース性も性格も、食の好き嫌いも共通点はない。よくこんなに毎日一緒にいれるもんだ。 「何言ってんの?身体の相性最高だよ。お互いを一番感じるなんて、それだけで相性は問題ないよ。」 「ば、馬鹿っ!こんなところで言うな!」 「痛っ!」 脚を思いっきり蹴るとスネに当たったのか悶え苦しんでいた。 たらふく食べて締めのデザートを待っているとき、ズボンポケットに入れていた携帯が震えた。画面を確認すると、矢澤から着信だ。 「あ、弓弦悪いけど電話出ていい?」 「うん。いいよ。」 「さんきゅ。」 携帯を手に取り、通話の画面を押す。 「おー。どうかしたか?」 『あっ、松元さんこんばんはっ。今いいですか?』 「ああ。友達と飯食ってるから長くは話せないんだけど、ちょっとならいいぞ。」 『あ……、もうご飯食べられてたんですね。』 「ってことは……、また飯作ってくれたの?」 『はい……、これぐらいしか恩返し出来ないので……。』 「もう充分だよ。金ないんだからちゃんと矢澤が食べな。」 『でも……。』 「でもじゃない。自分大切にしな。」 『松元さん……。わかりました……。あ、あの、また連絡していいですか?』 「わかった。しっかり食べろよ。」 『はい、ありがとうございます。』 電話を切って一息ついた。弓弦がジッと俺の顔を見るので、機嫌を損ねたかと思ったが違ったようだった。 「矢澤君何の電話だったの?」 「飯作ったからどうぞだってさ。もういらないっては言ってるんだけどな。」 連絡先を交換してから何度か連絡が来た。お礼に作った食事を食べて欲しいとの連絡が主で、金がなさそうな子に負担をかけたくなかったので断るが、するとすごく残念そうな文面できて、矢澤の希望通り作った飯をご馳走になった。 和食中心て、煮付けや煮っころがし、味噌汁、副菜が出てくる。俺は男飯しか作れず、基本は買った食事なので手作りの飯は美味かった。だから誘われる毎にご馳走になっていたが、ある日矢澤の弁当箱の中身が白ご飯ともやしオンリーの炒め物が3種類の味付けで入れられているのを見て俺は後悔した。それからは誘いが来ても自分で食べろと今のように言っている。 何回目か会った時に、何故貧乏なのか聞いてみた。矢澤はβ×βから生まれたΩで、両親は受け入れてくれなかったと言っていた。しかし世間体を悪く見られるのを気にして、大学の学費だけは援助し、生活費は出す余裕はないからと1円も仕送りがないらしい。なので生活費は自分で稼ぐしかなく、時間が許す限りバイトをしているとのことだった。だがΩであるため、発情期の時は休んだり、学生の本分である勉強も両立しなければならない。生活は苦しく、大変そうだった。 腕は悪化なく徐々に良くなってきて安心したが、こんな苦労人の矢澤が気になってしまい、俺からもちょこちょこ連絡している。 「最近仲良いね。」 「そうか……?何だか危なっかしいから気になるんだよな。」 「へぇ……。」 その夜はお祝いだからか、sexがかなりねちっこかった。就職が決まったからsex三昧だと思っているのだろうか。体力馬鹿じゃないので程々にして欲しい。

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