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・・・間違いない。
廊下ですれ違う正嗣の様子がおかしい。自分のことを忘れた男のことを心配するなんて、相変わらず俺は大馬鹿者だ。
廊下ですれ違った正嗣は俺を見なかった。はるか遠くから頭を下げたままで動いたかどうかも見極められない程の小さな会釈をしてすれ違う。
明らかに、不自然すぎる。そうかといって、大丈夫ですか?と声をかけるのはもっと馬鹿みたいだ。
何も言ってこないし電話もかけてこない正嗣に俺ができることはない。
そもそも、もう関わることを止める時なのだ。今度こそ本当の潮時だ。
金曜日の終業時間を終えて帰るまでの5日間。正嗣とすれ違った3回は俺に違和感を残した。
ため息をつきエレベーターに向かう。
家に帰れば晃希がいるはずで、今日は鍋をつつこうと嬉しそうに電話をしてきた。
春はまだ少し先だから、冬の名残を楽しみながら温かい鍋を囲むのもいいだろう。
頭の隅に正嗣の俯いた姿が引っ掛かったが、俺はそれをそのままにした。引っ掛かりがとれて消えていくのに任せた。
もう・・・潮時だ。
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