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暗い部屋にじっとしていると、とりとめのない映像や思い出が溢れてくる。ガチガチに緊張して面接前にトイレにいた正享。他愛のない話をしながら酒を飲んだこと。広田と三人で合格祝いを強引にしたこと。結婚することを言ったあとに嬉しそうに「よかったな。」と言ってくれたこと。 そして・・・正享が男を抱ける人間だったということ。 正享への気持ちはどこに分類される?あの日トイレで男とセックスをしている場面に遭遇するまで、俺の中で正享は明らかに「友達」だった。気の置けない仲のいい友達。俺の都合にあわせ時間をつくってくれ、暇だという理由だけでかけた電話にも毎回つきあってくれる。 結婚生活のありがちな愚痴を言ったり、仕事での悩みを口にした。考えてみれば、話をしていたのは俺のほうで、正享は聞き役だった。それも優秀な聞き役で、俺のつまらない悩みや愚痴は電話を切る頃には忘れてしまっているほどだった。 居ることが当たりまえで、失うことなど考えたこともなかった。 あのセックスの場に出くわして感じたのは、遠ざかって行く正享だった。俺の知らない正享の姿は衝撃的だった。とても熱くて俺を狂わせた。 そのあと俺がしたことは、全てをなかったことにすること。正享ごと忘れてしまうことだった。それは一度成功したというのに、俺は逆らってほじくり返した。 何故だ? 俺は美砂緒を好きになったように、男として男の正享を好きになったのか? セックスシーンを切っ掛けに惚れることなんてあるのだろうか。 欲情と恋はイコールなのだろうか。 美砂緒を抱けなくなった俺は美砂緒を嫌いになったか?いいや、たぶん今も彼女を愛している。失った事を後悔している。セックスと愛はイコールではないということか? くそっ・・・すべてが「何故」の塊だ! スマホを握ると、ボヤっと暗闇の中で日付と時間が映り込む。 こんな時間にかけるべきではない。 そもそも電話をするべきではない。 そんなことわかっている、わかっているけど止められない。 「正享・・・悪いな。」 俺は電話帳を開いた。

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