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終業時間を少し過ぎた頃、電話が鳴った。 【正嗣】 俺はためらうことなく電話にでる。心に決めたことをきちんと伝えて、捻じ曲がった関係にケリをつけよう。 『あのトイレにきてくれないか。』 「わかった。」 正嗣がそのトイレで何を望むのかわかった。寿にしたように抱けということだろう。狂ってしまったネジをもとに戻すには最初に戻り、なかった事にする・・・それが正嗣の出した結論だ。俺は反論も賛成もできない。よくわからないからだ。 向ったトイレには清掃中のスタンドが置かれ、男子トイレにだけ電気がついていた。 寿とこもった同じ個室の扉をあけると、思った通り正嗣がいた。 じっと見つめ合う俺達に言葉はない。言葉を交わすことはめっきりなくなった。肉体のぶつかり合いだけしか存在しないから、正嗣の心も俺の心も育つことはなかった。俺の気持ちはとうに終焉を迎えている。ホテルで正嗣を抱いたあの夜ですべてが終わったのだ。かつてこの男を好きだった自分を知っているが、今は違うことも知っている。 空っぽのベッドに狼狽えた朝、自分が一番何を望んでいるのかを教えてくれた。それが真理、それ以上でもそれ以下でもない。 俺は黙って正嗣のボトムを引き下ろした。身体を反転させ下着をおろす。そこはすでにローションで濡れておりアナルプラグが刺さっている。準備は万端ということだ、あの日の寿と同じ。 両手を壁に押し付けようとすると、手のひらが返され親指と手のひらで挟み込んでいるゴムの袋が現れた。そういえば・・・ゴムをはめた。そんな細かいところまで覚えている正嗣に寒気がしたが、とことんまで付き合おうと決めた。 袋を破り手をまわすと、すでに固く勃ちあがっている。 手早くゴムをかぶせ、自分も同じようにする。正嗣と違い完全に勃ちあがっていないが、この先にある快感のみに意識を飛ばして扱きあげると固さを増した。 ひくついている後孔からアナルプラグを引き抜く。 「あっ・・・。」 そのまま無言で押し入った。 「うっ・・・あああぁ!」 トイレに響くローションが泡立つ音 正嗣の喘ぎ声 肌がぶつかりあう乾いた音 壁についた正嗣の両手に自分の手を重ね、思い切り背中に圧し掛かる。 「ああああ・・・・・。」 感じ入る正嗣の声は艶に満ち、背中越しだというのに蕩けている顔が見えるようだった。 快感はある、中のうねりは強烈で、正嗣が感じているのがわかる。でも俺の心は冷静で、機械のように、ただひたすら正嗣のいいところを突き続けた。 足の力が抜け、落ちそうになる腰を支えながらひたすら奥を穿つ。正嗣の呼吸が荒くなり、うわ言のようにイキそうだと言い募る段になって、俺も自分を追い上げはじめる。 ゴムのうえから亀頭を刺激し射精を促すと、正嗣の背中がこわばった。腰を両手でつかみガクガク揺らすと耐えきれない悲鳴のような声が迸る。 「ああああ!!!イク!いく!まさ・・・・ああああああ!!!!!」 しっかり腰を抱きながら中の熱に身をまかせて迸らせた。 俺が声をださなかったことに気が付いただろうか。俺であって俺ではない男に貫かれて、狂った幻影と欲情が消えたか?どうだ、正嗣。 ずるりとアナルからペニスを引き抜き便座に正嗣を座らせる。自分と正嗣のゴムを外してトイレットペーパーでぬぐった。 「正嗣。」 座ったまま怠そうに俺を見上げる両頬を挟む。 「もう・・・気が済んだか?俺はこれ以上つきあえない。好きな・・・男がいるんだ。」 「うん・・・。もとに戻れる・・・大丈夫。」 「一人で帰れるか?」 「ああ、大丈夫。」 「最後にキス・・・していいか?」 正嗣はゆっくり目を閉じた。触れるだけのキスをして唇を離す。 俺の長い恋が終わった。 心のないセックスと、優しいキスとひきかえに 俺の恋に区切りがついた。

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