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<24>最終話
「そんなことがあったんだ。」
来てほしい、そう電話したら晃希は二つ返事で来てくれた。何が起こったのかきちんと説明しなければならない。そして自分の気持ちを伝える。
晃希の心の中に義人という男がいてもいい。義人以上の存在になれるように努力をする。答えはとても簡単だった。
だから正嗣との間に起こったことを洗いざらい話した。晃希の表情は変わらず、いつものように柔らかく穏やかなままだ。それをどう判断していいのかわからず、自分の気持ちを伝える前に言葉が止まった。
「会社のトイレで悪いことをするからだよ。自業自得・・・でもそのおかげで正享さんは気持ちに区切りをつけられたのだとしたら、悪い事じゃなかった。そうだよね?」
・・・そんな風に考えることができるのか?あの意味のない身体のぶつけ合いに?
「・・・どうだろう。」
「俺も報告があるんです。義人に好きだった、ずっと好きだったって言えました。」
「えっ。」
晃希は笑っていた、そこに涙はない。
「ものすごくビックリした顔をしたから、おかしくなって俺笑っちゃって。でも過去形だよって、区切りの告白だから気にするなって言えました。ちゃんといい兄さんってやつになってやるって・・・本気で言えた。」
「・・・晃希。」
「忘れられないともがく。それは自分の心の中にずっと相手が棲みついているからです。
俺の心の中に正享さんが少しずつ入り込んでくれた。少しずつ義人の居場所が減っていく。それを毎日実感していました。このあいだの朝、トイレから戻ったら正享さんが必死の形相でスマホを握っていた。俺は・・・また正嗣って人からの電話なのかと思ったんです。でも違った、俺の顔を見て解けた正享さんの顔を見た時・・・俺、この人が好きだって思った。
だから義人にちゃんと言って自分の心に区切りをつけようって力が沸いた。
あの店で声をかけてくれなかったら俺はまだグズグズしていたはず。正享さんが救ってくれた。そして・・・新しい恋をくれました。」
晃希の瞳から涙が零れ落ちた。それはとても綺麗で、前にみた泣き顔とは全く違いキラキラしていた。こみ上げるものを飲み込もうと必死になっても抑えることができない。
「こう・・・き。」
伸ばされる指先を握る。
「俺の心に棲んでいるのは、晃希だけだ。」
「俺も、正享さんだけです。」
しっかり抱きしめて腕の中の存在に頬を寄せる。
どうしよう・・・馬鹿みたいに嬉しくて泣けてくる。
テーブルの上でカタカタとスマホが震えた。
「正享さん、メールみたいだよ。」
「今はいい。」
「だめです。大事な知らせかもしれないから。早くメールをみて用事をすませてください。そして・・。」
「そして?」
「ベッドにいきましょう。」
キスを落してテーブルに腕を伸ばす。光るスマホを握り、タップすると正嗣からのメールだった。
『 すまなかった ありがとう さようなら 』
短いけれど、すべてがそこにあった。これ以上の言葉はいらないだろう。画面をそのまま晃希に見せる。俺のかつての恋と友情が消えたことを示す3つの単語。
涙で光る瞳を閉じて晃希が頬にキスをくれた。
アドレス帳を開く。
メモリーから正嗣が消えた。
手をのばし、そこに存在する愛おしさにすべてを委ねる。
今度こそ大丈夫。
穏やかで優しい毎日を積み重ねよう。
新しい恋とともに。
END
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