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人殺しと珈琲※
コンビニで買ってきた缶コーヒーを二個とカップラーメンを一つ。
カップラーメンにはお湯を入れたばかりで、あと三分待たなければならない。携帯で時間を確認して、床に座ってテーブルの上にカップを置いた。
「ねえ、俺にもコーヒー買ってきてくれたんだ」
そう言って、俺の隣に座ってきた自称幽霊を俺はちらりと視線をやった。
「まあ…一応客人だしな」
「ふうん?…ありがと」
そう言って、男は缶コーヒーを手に取って手の内のものを凝視する。
「んだよ、そのメーカー嫌いだったか、なら悪いな。そのメーカーが好きなんだよ」
「いや、違うよ。俺もこのメーカー好き」
ふうん、なら良かったと音にならないくらいの台詞を舌で転がして缶コーヒーを口に含んだ。苦くて深いコーヒーの味は、俺がしまい込んだ古い記憶を噛みしめているようだった。幽霊でも好き嫌いなんてあるんだな、なんて検討違いな言葉を浮かべながら。
男は、缶コーヒーに口を付けてゆっくりと机に置いた。
「そう言えば、しばらく置いてほしいって言ってたけど…なんで俺なんだ」
そう、これは何度も何度もコイツに繰り返している質問だ。
「それは…答えられないんだ。」
ホラ、この解答。いい加減に答えてほしいのに。
顔は良いこの男は眉毛を下げて、困ったように笑っている。その顔に大して無性に腹が立って、俺は舌打ちをする。
「は?置いておくったって、俺は赤の他人だし、お前のことなんて知らないのに…」
「それは、ごめん。でも、俺はもう死んでるし、別に飯だっていらないし睡眠も必要ないよ。ただ、君の傍に置いてくれれば良いんだ。」
「その死んでるってなんだよ!何度追い出して鍵締めても入ってきやがって!」
「だから、幽霊だって言ってるじゃん」
なんだ、それ。ファンタジーの世界じゃあるまいし、俺にそれを信じろっていうのかよ。
「俺はお人良しじゃないんだ、そういうのは他をあたってくれ。」
「君は、お人良しだよ。僕は知っている。」
「なんで知ってるって言い切れるんだよ!お前は俺の何も知らないくせに!」
冷たく言い放つと、俺は男の瞳に冷たい血がどろり、と流れているように錯覚した。
なんだよ、なんでそんな目をするんだよ。
俺は、まるで金縛りにあったかのように動けなかった。ゆっくりと近づいてくる男は冷たい手の先で俺を押し倒す。身体はいう事を聞かず、男にゆっくりと押し倒されていく。覆いかぶさられ、覗く男の顔は先ほどとは打って変わって表情がなく、本当に幽霊だ。
「佐助、」
「ッ…」
自身のうなじに口づけられ、ふるりと背中へと快楽が走る。男から漏れる息は熱く、まるで生きているようだった。幽霊なんて絶対嘘だろう。
何故か溢れ出す、瞳の欠片に口づけを落とす男の表情はもう見ることができない。徐々に瞼、鼻、頬と下がってくつ口づけが、俺の唇へと落とされる。
俺は、男の下唇を甘嚙みをした。それが、合図になったのか可愛らしいキスが、深い深いキスに変わる。
「んあ…ふ、あ」
部屋には、互いのフェロモンが充満し、呼吸をするたびに媚薬が体中を駆け巡っているみたいだ。
口の中の粘膜という粘膜を犯されて、男の体温を感じ入っていた。
俺の耳に入るのは、くちゃ、クチャという愛し合っているという証明をする音のみ。
ああ、お前が愛おしい。
お前を愛している。
後孔に刺さった肉棒は熱く、粘膜が焼けそうだ。このまま焼けて二人で一緒に灰になれればいいのに。ぐぷりと、ナカを抉る男根を意識的にぎゅうと締めると、男は低くうなった。
俺は、男の余裕無さげなその様子に、にやり、と笑うと爛々と光るその瞳が俺を捉えて離さない。強い眼差しはまるえでしとしとと振る雨のようで、空が泣いているみたいで綺麗だ。
あぁ、その目を久しぶりに見た気がするよ。誰だっけ。
指と指を絡めて、もう離さない、離したくないと心臓がキリキリと痛んだ。声にならない喘ぎ声を上げ、強く前立腺を抉られる度に、仰け反り急所を晒す。
喉仏をがぶり、と噛まれそれだけで甘い絶頂に達する。
なんだよ、しっかりうなじを噛みやがれ、と喘ぎつつもゆっくり訴えると、俺を貫く男がふっと色気たっぷりに笑って傷だらけのうなじに歯を突き立てる。
その瞬間、快楽がうなじから溢れるように全身に流れ込み、どこもかしこも性感帯になってしまった。
勃ち上がった乳首を、口に含まれころころと下で舐められてしまうと、あまりの快楽から逃げだす為に、背中を逸らせ胸を付きだしてしまう。その仕草はまるで、もっと舐めて、と言っているようだ。
増々大きくなる男の熱に、この甘い瞬間も終わりなのだ、と悟る。俺はすでに何度も何度も達しており、はやくいけ、ばか、とかわいくない暴言を吐いてしまう。
なかにだせ、と耳元で囁けば一番奥深いところで、彼の熱い熱い種を中に注ぎ込まれる。余韻を味わうかのように、達した後も精子をなじませるように動く腰を両脚で抱き込んだ。薄れていく意識の中で、彼の顔をせめて見たい、と思い視線を上げる。
なんだ、その顔。
また、会えるだろ?なんて顔してんだよ、
好きだよ、ちゃんと伝えれば良かった
こんなことなら、あそこ行けば良かったな、また来年とか言って結局家でゴロゴロしちまったな、
言われなくてもちゃんとごはん食べるから、
しっかり部屋を片付けるから、
靴も脱ぐとき、しっかり揃えるから
俺、おれ、頑張るから、帰ってきてくれよ…
愛してる、零
無情にも、三分を知らせるアラームが鳴り響いた。
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