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試読3
(……本当に、一人になったんだ……)
桔梗国の車に少し揺られたところで、押し寄せる不安感に冷や汗が吹き始めた。駆け引きだったのだから、単独で他国へ乗り込むことは仕方がない。仕方がないのだが、いざ一人になると心細くて胸をかきむしりたい気分になる。
それにこの桔梗国の車は芙蓉国のものより造りが粗いようで、背も臀部も痛い。外装はずいぶんと派手に見えたが、内部は簡素なあたり、桔梗国というのはこの車のようなものなのかもしれない。
……急成長を遂げ威勢よく見えているが、その実の内側は、国という認識までたどり着けていないのではないだろうか。
「瑞雪殿、お疲れではないですか?」
「あっ……」
車夫として馬を走らせる彩周が外から声をかける。その後ろ姿すら華やかで、様になっていた。
「い、いえっ……大丈夫です。……あ!」
「え……?」
瑞雪は己のことばかり考えてしまったことに気付き、大きな声をあげた。確かに彼に疲労はなかったが、彩周はどうだったろう。
「さいっ、彩周どのは……お疲れで、ないですか?」
「はは。私ですか? お気遣い痛み入ります」
どこまでも涼やかな彩周の声色に、瑞雪は心地よささえ覚え始めていた。知る人のないこの地で、彩周だけは信じてもよいのかもしれない。そういった存在であってほしいと願いながら、車は青毛の馬を駆けさせて王宮へと進み続けた。
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