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四畳半
物の少ないがらんとした四畳半のワンルームにスタスタと向かって窓側の隅っこに背をもたれて座った。上着を脱ごうと思って袖を引っ張った瞬間、堰が切れたように小さな小さなため息が出てしまって、それが引き金にでもなったように涙がぼたぼた目から出てくる。
声が漏れそうになって噛みしめた。脱いだ上着に顔を埋めてうずくまった。殺しきれない涙が隙をついて溢れ出てくる。冠水した川みたいに。俺の中にもはや留めておくことができない気持ちが涙になっている気がした。
これから一週間の間この切なさと戦わなければならないとかと思ったら、残酷過ぎてもっともっと切なくなる。こんなに酷い気持ちになったのは初めてだ。
さっき会った萼のことを思い出してしまうから。今までだったら胸は苦しくても泣くことなんかなかったのに。酷いよ。こんな気持ちは正しくない。
萼は俺の所在を一体どこから嗅ぎつけてきたんだろう。なんで今更なんだろう。2年も放置してきたくせに。なんて、本当に俺は構ってちゃんだ。別に探して欲しくて萼から距離をとったわけじゃないのに、心のどこかで追いかけてきてくれるんじゃないかと思っていた自分を殺すことができなかった。
俺にとって萼がかけがえのないものであったように、萼にとっても俺がかけがえのないものだったらいいと思った。それなのに。
お前は半年後に婚約しちゃうんだ。
いや違う。俺の心は。そういう気持ちはなかったのに。
双子だったらよかったのにな。双子だったらΩでも萼にこんな気持ちを起こすこともなかったのかもしれない。双子だったら俺の性別を気軽に打ち明けられたのかもしれない。中途半端に他人じゃなかったら萼の婚約を心の底から祝福できたかもしれない。
うるさいなあ。もう。こんなもしも話なんて、してなにになるんだろ。
現実は当然のように俺を苛む。
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