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ノーコメント
『霹靂さんって男? 女?』『どこ住み?』『何歳?』『影響を受けた人って誰?』『出身ってどこ?』『コーヒー派? 紅茶派?』『身長は?』『絶対細いよね! 指は白くて長くて、ギターを弾いてるって感じの手』『←妄想激しすぎ。案外中年太りしたおっさんかもよ』『容姿は音楽に関係ないだろ』『いや案外あるって』
はい、全部ノーコメント。
『サムネイルも素敵』『自分で撮って加工してるのかな?』『素材じゃない?』『味があるよね』『この間のピックの写真って私物かしら?』『霹靂はピック使ってないよ、爪伸ばしてるから』『どこ情報だよ』
ほんとどこ情報だよ。爪は伸ばしてるけどな。右だけ。
『歌は歌わないのかな?』『楽曲提供とかしてるのかな?』『霹靂さんの声聞きたいー!』
お前ら俺の声聞いたらもっと俺が分かんなくなるぞ。
唯一。
『どんなギターを使っているんですか?』
これには答えた。文字で。
嬉しかったから。
でも銀のくじらが箔押ししてあるギターは世界にたったひとつだけ。だってあれは萼がつけてくれたものだから。
ああ、なんか俺、ギターに触れたい。なんで置いてきてしまったんだろう、あんな大切なものを。
萼、まだこの街にいるのかな。
萼に会いたい。違う。会いたくない。会いたくない会いたくない。
寝よう、寝てしまおう。
気を紛らわすようにラヂオをかけたら、萼が歌っている曲が流れていた。彼の声が聞こえる。やだな。でも聞かずにはいられない。安心する。ここにギターがあればもっといいのに。
苦しさと切なさの間の甘い疼きを焦燥で中和させて、大きく息を吸って止めた。
意識が切れるまで、彼の声を追っていよう。
*
さざなみの音がすると思ったらホワイトノイズだった。ラヂオから聞こえてくる。チューニングがずれたのかもしれない。知らないけど。
心地よい気持ちから一転した。残念すぎた。海の中にいるわけないのに、現実はあな厳しい。
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