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体温だけじゃもう足りない

「……、っ、ぅ……っは、あ……」  肩で冷たい息を吸った。  こんなんじゃ隣にいることができなかった月日を埋めることなんてできない。 足りない。体温だけじゃもう足りない。おかしくなっちゃうよ。苦しくて涙が出てきた。  固く目を閉じた。もう開けたくない。体が浮遊する感覚があった。抱き上げられたみたい。どこへ連れていかれるかなんて知らない。  首に抱きついて、ごめん、と小さく囁いた。ごめん。ごめんなさい。  ごめんなさい。  *  冷たいシーツの感触を感じた時、すでに萼が俺の上に覆いかぶさっていた。腰に跨って俺を逃がさないとでもいうようにがっしり脚を絡めていた。そんなことしなくても俺の体は最早自分で身じろぎすることも難しいくらいに力が入らなくなっている。  上で当たり前のように萼が衣服を脱いでいた。自分の体躯と違い過ぎて息を呑む。ひとまわりくらい大きくてしっかりしている。これからこの体にいたぶられると思ったら体がより一層熱を帯びて欲が暴れ狂う。自分が本当に気持ち悪い、って嫌悪すら霞むような強い欲求だった。 「あざみ、泣かないでよ」  いやそれはずるいだろ。なんで、こんな、時に、名前。  気持ちがぐちゃぐちゃだった。分裂したい。いろんな感情を千切って投げて捨てたい。 「……っ、ん……!」  涙を舐め取られ衣服を寛がされながらまた唇を塞がれた。食む荒々しい口付けにすら欲情する。体が痺れて四肢の力がなおさら抜ける。腰がゾクゾクと重くて鈍い疼きで支配されていく。欲しい、欲しいと頭に直接響いてくる。 「あざみ、ここからすごく薫ってくる」  うなじを解すように揉みしだかれた。 「……ぁ、っ、ああ……や、っ……」  ああ、噛んで。噛んで思いっきり、噛みちぎって、って身体中が叫んでいる。殺すように唇を噛んだ。しんどい。  下衣を脱がされたと思ったら、自身に彼の手が触れる。ものの数秒で爆ぜて白濁した液が下腹部に散らばった。 「すごい」  ぼやける視界で彼の表情を伺った。そこに軽蔑の色はない。笑みが。本能の赴くままに笑ってる。恍惚に満ちていた。彼のこんな顔本当に初めて見た。俺がそうさせている。俺? 俺が? なの?   精液で濡れた下腹部を大きな彼の手の平が摩る。びりびりと電気が走ったかのように体が跳ねた。奥で蠕動が止まらない。 「ここに凄く突っ込みたいんだけど、奥まで。いい? いいよね、ねえ」 「……う、っ、あ、ぁ……」 「ねえ、あーちゃん……」  ずるいよ。  

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