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気持ち悪い

 しかも俺、多分中出しされた。体が悦んでいるのがはっきりと分かった。嬉しいって思ったのは嘘じゃない。この2年、体がどれだけこれを渇望していたのかをまざまざと感じるくらいに。悦楽が体中を駆け巡って、吐きそうなくらい生きている感覚を感じた。気持ち、よかった。快楽の向こう側を見た気がした、くらい。違う。そうじゃないよ。どうしよう、赤ちゃんができていたら、萼の隠し子なんてゴシップに取り上げられるかもしれない。彼の好感度に傷がつく。  思わず下腹部を摩った。お腹の奥にしっかりと子種が入っている感覚がある。萼の子種、そう思うだけで体がじんじんと脈を打った。酷いな。だけど……多分赤ちゃんはできていないような感じがした。良かったって思うのと同じくらい、本能的に残念がっている自分もいる。すごいΩって、なんでこういうことは生々しいくらい感じられるんだろう。気持ち悪い。すごく自分が気持ち悪い。性欲の虜みたい。  だけど絶対妊娠していない、なんてはっきりとは言えるわけじゃない。  一段飛ばしで登ってきた彼のきらきらの人生が。俺のせいで。  俺のせいでめちゃくちゃになる……! 「ご、め……っ。ごめ、ん、なさ……っ!」  眠っている彼に言ったって仕方ないのに、呪文のように呟き続けた。嗚咽まじりの言葉はどこにも届かない。  縋るようにギターケースを抱きしめた。  ここにいたって仕方ない。嫌だ。もう、こんなちぐはぐな気持ちは嫌だ。  震える手でサイドテーブルに置いてあるメモ帳に書いた。 『ごめんなさい』  上着のフード被る。眠っている萼を見た。体がまだ疼きそうになる。この衝動が嫌い。嫌い。大嫌い。だのに。  俺はやっぱり、萼が好きで好きで仕方ない。Ωだからとかそういうことじゃない。多分。俺は萼が好き。小さい頃からずっとずっと萼が好き。  萼の幸せを壊す俺は大嫌い。  もう会わない。  そう思ったら恋しい気持ちが粉雪のようにしんしんと降り積もる。起こさないように慎重に彼の手を持ち上げて、甲に静かにキスを落とした。 「……大好き」  ギターを抱えて部屋を出て、息を殺してホテルから消えた。  もうこの街にはいられない。  

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