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昼間の街

 ギターがケースごとごとりと落ちる。思わずギターに意識がいった瞬間被っていたフードを取られた。剥ぎ取るように上着を引っ張られる。  太腿に男の雄を擦り付けられてゾッとした。 「や、っ……! んだよ! はな、せよ!」  シャツに男の手が入り込んでくる。うなじに顔を寄せられて思わず体がびくりと跳ねた。 「ひゃっ、うっ……!」  音が聞こえるくらい鼻で空気を吸っている。匂いを嗅いでいることは明らかだった。力がみるみるうちに抜けていった。あんなに穏やかだった心が荒れ始めている。  嘘、まさか。うなじに硬いものが当たるのが分かった。歯だ。 「や、っめ! イヤだ! 離せ!」 「君が悪いんだよ。こんな匂いをさせてるから……!」 「離し、て! やだっ、い、っ、や……!」  胸の突起を男の手が弄る。反射的に体が反応してしまう。気持ち悪い。気持ち悪いのに、体が彼を受け入れるように熱を持ち始めていた。  嘘だろ。嘘。  嘘って言ってよ。最低。  できうる限りの力で抵抗したけれど、力の入らない体では全く太刀打ちできない。そもそも体格差がありすぎる。  男は執拗に俺が悪いと耳元で囁き続ける。  君が悪い。君が。君が悪い君が悪い。呪文のように聞こえてくる。  俺が悪いのか。  涙がぶり返してきた。  生ぬるい男の息をうなじのすぐ傍で感じる。もうダメだ。全部俺が悪いんだ。  ぎゅっと目を瞑った隙に、男の悲鳴が一瞬耳をつんざいてすぐ遠くに流れていった。びっくりして目を開けたら体が自由になっていて、なぜか男が数メートル先までぶっ飛ばされている。 「いい女がいそうな気配がしたから来てみたらお前だったんだけど。心底がっかりなんだけど」  凱虎が立っていた。男は彼にぶっ飛ばされたらしい。俺は首を横に振りながら自力で立っていられなくなってその場に崩れ落ちる。  みっともないと思って泣き止め、泣き止めと自分を叱咤しても雫は引っ込むどころか溢れ出る一方だった。はだけている上着の袖で目をごしごし擦っても擦っても止まらなかった。マスクが涙でぐしょぐしょになる。  怖かった。怖かった、って思ったらもう全然立ち直れそうもなかった。  凱虎に絶対に馬鹿にされると思ったのに、彼は少しもそんなそぶりを見せないで、投げ出されたギターケースを俺の傍まで持ってきてくれた。 「あちらさんたちは知り合い?」  指差された先、路地裏の入り口に何人かがこちらの様子を伺っていた。  首を横に振る。  あんまりにも無防備だった。  俺はΩで、発情期で、昼間の街に、αがいないわけがないんだ。  

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