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断捨離
自分の性を隠しているのに誰にも知られたくないのに、手に入れられるわけがない。医者にΩじゃないけどクスリをくださいなんて言ったところで処方してもらえるわけもない。馬鹿でしょ。それにクスリを使うなんて、本当、なんか。
自分が本当にΩだって、認めているみたいで嫌なんだ。
でももう言い逃れできない。
昨日と今日とで自分の性をとうとう認めなければならない事案が起こりすぎた。現実の出来事に心が少しも追いつかない。
膝で握った拳に力が入る。じっとそれを見つめていた。
なんか馬鹿らしくなってきた。
面白くなって笑った。
俺ってほんと無理。
「なんで俺Ωなんでしょうかね。なんかの間違いじゃねえかな、って、2年間ずっと思ってた」
自嘲半分でけらけら笑ったら、彼女はタバコの灰を落としながら言った。
「あなたがΩだからじゃない?」
「意味分かんないです」
「そのうち分かるよ」
「一生分かんないと思う」
一生、と俺は繰り返す。俺の一生って、ほんと馬鹿みたい。
「Ωだから親に縁切られたし才能もないから学校でも散々いじめられましたよ。俺、αだったらきっとこんな惨めな気持ちにもならなかったし、今頃違う場所ですごいことやってたかもしれないし、周りの人たちに認めてもらえていたかもしれない。Ωってほんと馬鹿みたい。Ωってだけで、今まで持っていたもの全部全部無くなった」
「その程度で無くなるものなら無くしてよかったんじゃない、断捨離、断捨離」
ラッキー、とマスターは口笛を吹きながら言う。
正直彼女の態度は俺の神経を逆なでした。
「ラッキーじゃねえよ、俺、αじゃなかったせいで、人生滅茶苦茶だよ」
語気を荒げて言ったけど、彼女にはちっとも効いていない。
「性別で滅茶苦茶になる人生って退屈そう、とっても。退屈そう」
彼女は微笑を漏らすだけ。
俺がこだわって固執しているものが、まるですごくくだらないものだと言われているみたいだった。
いらいらした。
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