『ううん、上手くいかないんです。その人には付き合っている人がいて、多分近い未来に婚約をするはずです。』 　こんなことを言われたって困るよな。なんで俺、自分の曲が好きって言ってくれている人にこんなこと言ってんだろ。失礼だよね。 『相手がどんな境遇だったとしても、霹靂さんの好きって気持ちを殺す理由にはならないんじゃないでしょうか。しかも子どもの時からでしょう？　私は霹靂さんの年齢を知りませんが、それでもずっと思い続けてきた事実は変わらないですし。それに好きって言われて嫌な気持ちになる人はいないと思います。結果は分からないけれど、気持ちを伝えることは自由ではないですか。』 『本当に、告白されて嫌な気持ちになる人はいないのでしょうか。私は自分に自信がないから、もし告白して嫌われるくらいならずっと黙っていた方がいいと思ってしまいます。』 『自分に自信がないなんてとんでもないです。霹靂さん、自信を持ってください。チャンネル登録者数が３０万人を超えているんですよ？　熱狂的なファンがたくさんできるくらい素晴らしい曲を生み続けているんです。そんなあなたを誰が嫌いだと思うのですか？　仮に他の全部が出来損ないだとしても、あなたの曲にはたくさんの魅力が溢れています。それはあなたの魅力でもあるんですよ。大丈夫です、上手くいきます。結果とかではなくて、あなたの気持ちはちゃんと届くはずだから。霹靂さんがそれほど長い間大切に思っている人なら、相手の人もきっと同じように霹靂さんのことを大切に思っているのではないでしょうか。それから、今付き合っている人がいるから、とか、婚約するかもしれないから、とか、許嫁だから、とか、そんなの結局未来なんて分からないですよ。大切なのは予定じゃなくて、事実でもなくて、気持ちなんじゃないですか。付き合っていたって、好き合っているとは限らないし。嘘が多い世界だから。だからチャンスが無いだなんて言わないで。霹靂さん、頑張って！』 　３回くらいこの文章を読み返した。 　そうしたら、またメッセージが届く。 『告白して、ギターを取り返して、ぜひまた作曲してください。続けてください。それを乗り越えて生み出された新しい曲に、素晴らしいエッセンスが入っていることを祈ります。』 　なんかできそうな気がしてきた。ギターも大切だし、俺はあのギターが無いとダメなんだ。なにも出てこない。なにもできない。うん。取り返そう。 　だけどこの人、どこから《許嫁》なんて言葉が出てたんだろう。俺、一言もそんなこと書いてないんだけど。 　この人一体誰なんだろう。なんか嫌な予感がするなあ。 　まさかね。