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俺だけのもの

 卯姫子は凱虎に俺のことを一体なんて言ったんだろう。彼のセリフから大体察したけど。胸が痛いな。ギターが弾きたいな。  ギターを弾いて嫌な気持ちを洗い流したい。ギターを弾いて歌をうたってこの気持ちを言葉にしたい。そうしたら明日も明後日も泳いでいける。  俺はやっぱりΩで従兄弟で出来損ないで、萼を好きになる資格なんてあるんだろうか。交際相手のいる人間と寝てしまったことだって最低だ。いや違う、資格とかじゃない、真夜中さんが言いたかったことは。  資格とは別の場所に俺の気持ちがあって、それはマスターの言うように、俺がΩだからとかではなくて、この気持ちは俺だけのものだから。  だから伝えて、俺はまたギターを弾くんだ。歌いたいんだ。  ぽつり、ぽつりと呟くように歌っていたら、夜の孤独がさらに俺を苛んだ。一人って最高だ。だけど隣に誰かがいたらもっと最高かもしれない。隣にいてギターを弾いてくれたら、セッションしてくれたらいいな。昔みたいに。 「黙ってないで答えてよ!」  暗闇をつんざくような女の人の声が聞こえた。眠っている夜は驚く。朝なんじゃないかと一瞬ざわざわしたけれど、すぐに気のせいだったと夜は眠った。  俺はこの声に聞き覚えがあった。  この声は多分きっと。卯姫子だ。 「……歌が止まっちゃった」  小さな小さな別の声が、とても残念そうに呟いた。  これは萼の声だ。とく、と胸が沸騰したてのシチューみたいに音を出す。 「歌? なんのこと?」 「歌声を聴いていたんだ。すごく綺麗な声だった」 「なにも聞こえないよ」 「今はね」 「さっきからなにも聞こえてない! 話をそらすのはやめて」  萼と卯姫子が話してる。  俺は慌てて姿を探した。結構近くだ。声がよく聞こえたから。おもむろに立ち上がって大きな植木の近くに身を寄せたら、そのすぐ向こうで二人が話している姿が見えた。街灯に照らされて表情はぼんやりとしか見えない。でも姿は分かる。  潮騒が近くで俺の鼓動みたいにうるさい。 「莇は確かにこの街にいる。三日前に地下のBARでギターを弾いているのを見たの。その時声をかけようとしたんだけど、店の主人に婉曲に断られた。萼も見たんでしょう」 「見た。確かにあざみはこの街にいた。今度こそ本当にいた。やっと見つけた……!」 「違う、そう言うことを聞いているんじゃないの。どこにいたの、なぜ捕まえなかったの!」 「寝て起きたらいなくなっていた」 「馬鹿なの!? 死ぬの!?」  卯姫子の金切り声が耳に痛い。間近で聞いている萼の顔が目に浮かぶ。 「交際を公表しているのに寝たりして本当に信じられない。ゴシップになったらどうするの?」 「構わない」 「私にまで飛び火するの!」  完全に俺のネタで盛り上がっている。  

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