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朝と夜

 萼、歌が聞こえたって言ってた。ということは俺がすぐそばにいることも分かっているはずだ。それなのにどうして会話を続けるんだろう。 「焦らなくたって大丈夫。また会える。必ず上手くいく」  卯姫子の深いため息が聞こえてきた。 「私たち、先日交際を公表された、そうよね?」 「そうだね」 「半年後に婚約もする、間違いない?」 「今のところはね」 「生まれた時からそういう運命よね?」 「そういう予定ではある」 「じゃあどうして私以外の人と寝るわけ? しかも男! しかも従兄弟で、相手はあの出来損ないの莇! なんで莇なの? 私の方がずっと魅力的でしょ?」 「確かに卯姫子は魅力的だと思う」  ちょっともう聞くに耐えない。思わず耳を塞ぎそうになる。 「だったらどうしてずっと蒸発した出来損ないを追いかけているの! 聞いたらあの男Ωらしいよ」  へえ、そうなんだ、と萼は興味なさそうに言った。 「はっきりとそうは言わなかったけれど、聞いた話だとなんだかそんな感じがした。だから出来損ないだったのよ。いつまでも小さかったし。親が蒸発した理由を言いたがらない訳よね。Ωじゃね。可哀想」  どうやったら最高に幸せ、って笑顔で言えるのかな、マスター。 「萼もΩの従兄弟がいるなんて公表されたくないでしょう」 「されたくないね」  俺まるでそんなこと思えない。  彼の答えに彼女の呼吸が弾んだのが空気で分かった。  俺は立ち上がって植木を越えた。二人がいる場所に歩み寄って彼と彼女の顔を仰ぐ。  二人は朝と夜のように対照的な表情をして俺の姿を映していた。  

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