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傍は嫌
久々に見る卯姫子は、最後に見たときよりもずっとずっと洗練されていて美しかった。眩しいくらいだ。
俺の方に一歩、二歩と近づいてきたのは萼の方だった。
「あざみ」
歌うように俺の名前を呼んで、幸せそうな顔で俺を包み込もうとする。一瞬それを素直に受け入れようとした自分がいた。腸の方から煮えたぎるような歓喜と解けるような幸せな気持ちがこみ上げてくる。
「離せよ」
しかし俺はクスリでそういう衝動を抑制されているので彼をはねつけることなんてお茶の子さいさいのさいなのであった。
卯姫子の方に向き直る。
彼女は完全に俺を敵だと見なしている顔をしていた。萼はそんなこと御構い無しに俺の腰に手を回してこようとする。手首をがしっと掴んで静止する。やめて。
彼女に向かって頭を下げた。
「寝たのはごめん、俺がかどわかしたんだ。だからこいつは悪くない、責めないで」
「Ωだからでしょう」
なんで久々に会ったやつに言われたくないこと言われなければならないんだろう。
奥歯を噛み締めてちょっと笑った。
「……そうだよ。こいつが今こんなに俺に引っ付こうとしてるのも、俺がΩだから引き寄せられてるんだ。俺が悪いから、どうか萼を責めないで」
「そうだと思った。そうでもなければ萼が好きでもない相手と寝るはずないもの」
卯姫子の言葉って肉を切るナイフみたいだ。筋に切り込みを入れるみたいに、俺が言われたくないところを容赦なく切りつけてくる。
わざとだ。彼女はそういうやつだ。
「もう二度と萼に近づかないから」
私たち、半年後には婚約もする、そういう運命よね? 彼女がさっき言っていたことを思い出す。そういう運命よね。
俺は笑う。
「二人の幸せを願ってる」
萼の方を向いて言い放った。
「俺はここで静かに暮らすから……もう探さないで、追いかけてこないで」
「嫌だ、あーちゃん」
その顔はするな。
「……ダメなんだよ」
聞き分け悪いな、って笑ってごまかしたけど、歪む顔をごまかすことはできない。いつもそうだ、萼は。萼はいつもそう。
「俺の幸せを願うなら」
俺の虚勢なんて息を吸うようになし崩す。
「傍にあざみがいないといけない、いや……もう傍は嫌だな」
その触れ方は、ずっと肌に馴染んでいた水が流れていくような心地よさがした。腕をつたって、萼は俺の手に手を絡めて離さない。卯姫子がなにかを叫んだけど彼は少しも聞いちゃいない。
「隣がいい」
萼は俺を引き連れて風のように卯姫子の横を通り過ぎた。
「しばらく二人にさせて」
行こう、と彼は笑った。
どこへだよ。
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