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音楽にはキスしたい
「あざみさえよければ、どうか一緒にいて欲しい」
熱い視線を向けられてどうしていいか分からない。これってなんか。
いや違う。違う、よね。
心が舞い上がりそうになる自分を制止する。
「……でも俺Ωだよ、αじゃない。お前が一番分かってると思うけど、出来損ないだったし、声だって変だし、才能もないし……お前の重荷にしかならない気がする。それは嫌なんだ」
萼は首を横に振る。
「あざみがΩで困るって言ったのは絶対襲ってしまうと思ったから。実際襲ってしまった。それは、ほんと……ごめん、止まらなかった。……正直あざみともう一回会うまでにあざみを抱くことしか考えられなかった、本能に負けた」
口には出さなかったけど、俺も本能に負けた感があったし、これはお互い様、だよな。
「……やっぱりお前をおかしくさせてるじゃん、俺」
「あざみは怒るかもしれないけど、俺はあざみとそういうことしたいってずっと思ってたんだよ。しかもあざみの匂い最高だった。今まで嗅いできたどんな匂いよりも。またあざみの匂いを嗅ぎながらセックスしたい」
悪びれたように笑った。俺は動揺と羞恥でなにも言えない。握られている手なんか汗で湿ってきている。恥ずかしい。なに言ってんのこいつ。
「今はあんまり匂いしないし、心も体も余裕もあるけど、それでもやっぱり俺はあざみを抱きたいって思ってる。Ωだから抱きたいって思ってるんじゃない。あざみを抱きたい、俺もあざみが好き、ずっと好き。生まれた時からあざみしか見えてない、あざみのことが一番好き」
実際に好きって言われると、どうしたらいいのかよく分からなかった。
「食べ物とか洋服とか音楽とかの好きじゃない。キスしたい、抱きたいの好き」
あ、でも音楽にはキスしたいし抱きたいと彼は補足する。まあ分かるよ。俺は笑ったけど絶対困ったような顔になってたと思う。
「俺の気持ち伝わってる……?」
少し不安そうな彼の顔が近付いてくる。腰に手を回された。うん、うん、と言いながらキスされるって思ったら、目がキュッと閉じてしまう。唇に柔らかい感触がある。あったかい。
「ずっと隣にいてくれる……? もうなにも言わないでどこかに行ったりしない……?」
子どものような顔で悲しい顔をする彼は、小さい頃からなにも変わってない。
「……しないよ」
「大好き」
抱きしめられてようやくこれが現実なのかなあと思うことができた。
こんな幸せで、どうしよう。俺死ぬのかな。明日よくないことが起こるのかな?
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