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あなた

 明日のことを考えたら、未来のこととか、これから言われるだろう散々なこととか、酷いこととかが頭をよぎった。  俺はただでさえ家族から勘当されているのに。萼の未来も俺といたっていい方向に行くとは思えない。  俺と萼が一緒にいることなんて、絶対に誰も望んでいない。  俺はやっぱり、彼と一緒にいない方がいいんじゃないか。  ふっと俯いたその一瞬を見抜かれて、唐突に顎を掴まれた。 「今よくないことを考えた、そうだね?」  目を逸らした。  さっきまでの幸せな気持ちがじわじわと罪悪感に変わっていく。 「俺とお前が一緒にいることって、多分世間が許さない」  俺は吐き捨てるように言った。俺たちが今から開けようとしているのは、確実にパンドラの匣なんじゃないか。 「世間っていうのは、少なくとも俺とあざみのことじゃない。そんな世間はどうでもいい」  萼はいつもの微笑を携えて、俺を射抜いた先に遠い未来を見据えているような目をして言った。俺は首を傾げる。そうしたら彼は歯を見せて笑った。 「俺が失いたくないのは世間じゃなくて、あなた」  夜なのに彼の周りだけ明るい。  両手を取られて諭すように笑いかけられた。彼の口が言葉を紡ぐ。 「俺たちまた二人で歌を歌おう」  あの頃に戻ったみたいだった。 「……うん」  目から涙が出てきたけど、俺は笑って頷いた。  彼も困ったように笑って、目元の涙を指で掬う。迫ってくる胸板に素直に縋り付いて泣いた。  彼の体温は肌にまとわりつく真夏の海水のように心地良くて、懐かしくて、温かかった。  正直膝下は全部初冬の海水のせいでくそ冷たかったけどな。  余韻を楽しんだ後にずぶ濡れの服をあからさまにさすりながら彼が言う。 「あーもう足冷たい! 海で濡れたから! ダメだ! もうあーちゃんの部屋に行って服を貸してもらうか暖を取るか服を乾かすかするしかない!」 「お前それが狙いかよ!」 「そうだよ」 「うわ素直」  足が重くてしんどかったけど、彼が手を繋いで歩いてくれた。  お前に貸せる服なんてねーよって言ったら隣で萼がくしゃみをしていた。馬鹿だと思った。  

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